表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その村人は、王都の「普通」がわからない  作者: 延野正行


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/54

第38話 英雄(ふつう)になりたい……。

 どん、と強い衝撃が空気を震わせる。

 その瞬間、竜種最強のグランドキングは宙を舞った。

 しかも巨体は一回転する。

 そのまま顔面から地面に打ち付けられた。


 それだけに留まらない。


 衝撃は地面すべてに吸収されなかった。

 あろうことか竜はポンとバウンドする。

 再び空へ……。

 くるっとまた回転すると、今度は近くの岩肌に叩きつけられた。


 当然、“普通”じゃない轟音が鳴り響く。

 強い揺れが起きて、森にいた魔獣の怯える声が聞こえてきた。


 グランドキングは大の字で山の斜面に突き刺さっている。

 反応はない。

 さすがに体力お化けだけあって生きているようだけど、意識は断たれていた。


「はあ……。はあ……。はあ……。はあ……。はあ……。はあ……」


 ぼくは荒い息を吐き出す。

 心臓が痛いほど脈打っていた。

 まるで自分の身体じゃないみたいだ。


 いや、そんなことよりも……。


 これは現実なんだろうか。

 信じられない。

 月並みな言葉を選ぶなら、“普通”じゃない。


 ぼくの瞳に、グランドキングがのびてる姿が映っていた。


 え? おかしい?


 ぼくが倒したの?


「やったな、エイス」


 ポンとぼくの背中を叩いたのは、スライダル兄さんだった。


「いや、ぼくは……。兄さんが凄いんだよ」


 そうだ。

 グランドキングは、かなり傷を負っていた。

 手負いの相手に、ぼくが駄目押ししたに過ぎない。


「そんなことはないぞ、エイス。あいつは擬態していた」


「擬態?」


「俺に敵わないと思って、やられた振りをしていたんだよ。実際はかなり体力を残していたはずだ」


 そんな相手をぼくがのしてしまった。


 自分の拳を見る。

 殴った感触がまだヒリヒリと残っていた。

 今でも信じられない。

 ぼくが竜種最強の生物を倒してしまうなんて。


「ぼくはどうしてグランドキングを倒せたんだろう」


 ふと自問する。


 何か特別なことをしたわけじゃない。

 ただただ願ったんだ。

 病に伏した仲間を助けたい。

 ただそれだけしか考えていなかった。

 気がついたら、グランドキングを倒していた。


「それがお前の強さなのかもな。いや……それこそが――。



 英雄の血なのかもしれない。



「英雄の血?」


「俺たちのご先祖様の血ってことさ。お前には色濃く受け継がれているのかもしれない」


「そんな……。それなら兄さんの方がよっぽど」


 すると、スライダル兄さんはゆっくりと首を振った。


「俺はただ強いだけだ」


 いやいや……。

 それだけでも十分凄いと思うけど。


「俺たちのご先祖様。つまり、魔王をワンパンで倒したっていう英雄は、実はとても弱かったらしい」


「ご先祖様が弱い?」


「けれど、ある時限定で(ヽヽヽヽヽヽ)誰よりも強くなれる――。そんな体質だったらしい」


「ある時?」


 スライダル兄さんは、ふっと笑う。

 そしてぼくの背中を叩いた。


「わからないか。仲間を守ろうとした時さ」


「あ……」


「エイスはフェールト草を守ろうとしただけなんだろ?」


「うん」


「その魔草によって救われる仲間たちを救おうと考えた。だからじゃないか? グランドキングを倒すことが出来たのは……」


「そう……なのかな」


「率直にいって、俺にはわからない感情だ。たぶん、俺が強すぎるからだろう。今、あの瞬間だって、たとえフェールト草がなくても、また魔法で再生させればいい。そう思っていた。俺には簡単なことだから」


 けど、ぼくは違う。

 兄さんより弱いぼくは、そんな風に考えなかった。

 ただただ大事なリナリルさんや仲間を助けることに必死だったんだ。


「胸を張れよ、エイス。……お前はちゃんと(ヽヽヽヽ)強いぞ」


 ちょっと……。

 いや、かなり嬉しかった。

 あのスライダル兄さんが、「ぼくは強い」と認めてくれたんだ。


 視界が歪む。

 涙が滲んだ。

 ぼくは慌てて目を押さえる。

 泣かない。

 だって、ぼくは強いんだから。

 スライダル兄さんが認めてくれた。


 いや、違う。


 兄さんだけじゃない。


 リナリルさんやマリルー。

 ロザリムやエトヴィン……。

 他たくさんの人が、ぼくを認めてくれた。


 強いと褒めてくれた。


 ぼくは、それは“普通”じゃないと思っていた。


 けれど、違う。


 ぼくが強いということが、“普通”なんだ。


 でも、ぼくはまだ納得していない。

 だって、今もこう思ってる。

 もっともっと強くなりたい。

 仲間を――大切な人を守れるような……。



 英雄(ふつう)になりたいって……。



「さて、村に帰るか。ちょうどいい獲物も取れたようだしな」


 兄さんはグランドキングを指差す。

 すると、魔法でとどめを刺した。

 炎で焼かれる。

 香ばしい匂いが漂ってきた。


 今夜は、グランドキングのステーキらしい。


 薬で全快したら、みんなにも勧めよう。


 そんなことを考えながら、ぼくはフェールト草を採取し、村へと帰っていった。



 ◆◇◆◇◆



 村に戻り、ぼくは村長に教えてもらいながら、フェールト草を使って、魔力過剰症に効く薬を作った。


 それをリナリルさんたちに与える。

 もちろん、ぼくのベッドの上で眠るリナリルさんのお兄さん――フェルデュナンテさんにもである。


 ずっと意識を失っていたフェルデュナンテさんの瞼が動く。

 ゆっくりと開くと、リナリルさんと同じ瞳の色が現れた。

 こちらを向く。

 綺麗な紫色の瞳には、ぼくとリナリルさん、『鯨の髭』の仲間たちと、英雄村のみんなが映った。


「お兄様!!」


「リナ……リル…………?」


 フェルデュナンテさんは尋ねた。

 すると、リナリルさんは何度も頷く。

 涙を拭いつつ、返事を返した。


「はい。お兄様! お会いしたかった。会えてよかった……」


 すると、リナリルさんは爆発した。

 ベッドに横たわるお兄さんに飛び込んでいく。

 大きな嗚咽を上げて、フェルデュナンテさんの回復を喜んだ。


 顔を真っ赤にし、涙に頬を濡らすリナリルさんは、初めて見た。

 だから、とっても印象的だった。


 思わず目頭を熱くなる。

 もし、ぼくがリナリルさんの立場なら、ぼくもきっと大泣きをしたことだろう。

 それほど、印象に残る兄妹の再会だった。


 フェルデュナンテさんは、そっとリナリルさんの髪に手を置いた。

 赤ん坊をあやすように撫でる。

 その肌を感じ、またリナリルさんは泣くのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! よろしければ、こちらも読んで下さい。
『隣に住む教え子(美少女)にオレの胃袋が掴まれている件』


小説家になろう 勝手にランキング

cont_access.php?citi_cont_id=268202303&s

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ