第36話 強いからわからないなんて“普通”じゃない
お待たせしました。
連載を再開します。
「あの……。それで兄は大丈夫なんですか?」
心配げな声を上げたのは、リナリルさんだった。
確かに様子がおかしい。
息もしているし、見た目も問題ない。
だけど、目を覚まさないのはどう考えてもおかしかった。
強すぎるスライダル兄さんでは、見逃すような病気に冒されているかもしれない。
ぼくはもう1度【鑑定】を使ってみた。
念入りに調べてみる。
ううん……。
やっぱりわからないなあ。
首を捻る。
その時だった。
「はあ……。はあ……。はあ……」
突然、荒い息が聞こえた。
振り返るとロザリムが苦しそうにしている。
たちまち床に手と膝を突いた。
「あ、あれ?」
ロザリムは首を傾げる。
本人も何が起こったかわからない様子だ。
だけど、額に汗が浮かんでいた。
しかし、その症状はロザリムだけじゃなかった。
「うぅ……」
マリルーも倒れる。
それを受け止めたエトヴィンもかろうじて立っているような状況だった。
「エイスくん……」
振り返る。
リナリルさんも胸の辺りを抑えて苦しそうにしていた。
一体、どうしたんだ。
こんなの絶対“普通”じゃない。
「兄さん、これは一体……」
「すまん。俺にもわからん」
スライダル兄さんも首を傾げるばかりだ。
とにかく村で1番エラい長老に見てもらうことになった。
長老はやってくるなり、ぼくと同じように【鑑定】を使う。
けれど、それでもわからなかった。
次は触診を始める。
手で熱を計ったり、口の中の様子を見た。
そして眉を顰める。
「魔力過剰症じゃの」
「魔力過剰症?」
「長老様、それはなんですか?」
「今、わしが付けた」
ふぁふぁふぁ、と笑い出す。
呑気に笑っている場合じゃない。
みんながかなり苦しそうだった。
「冗談を言っている場合じゃありませんよ、長老」
ぼくはつい声を荒らげる。
すると、長老は長い白髭を掻いた。
「なんじゃ、エイス。ちょっと見ない間に、随分な口を聞くようになったではないか。いつも村では、暗い顔をして歩いていた頃が懐かしいわい」
「そ、それは――」
「いいわい。いいわい。若者はそれぐらいの方がええ。お前は良い子過ぎるのじゃ」
「そ、それよりも長老。説明をしてくれ」
兄さんが急かした。
「別に難しいことではない。この村に満ちている魔力が濃すぎるのじゃ」
「魔力が濃すぎる?」
「英雄村と外界の空気に含まれる魔力の量は違う。外界が空気なら、ここでは水を飲み続けているようなものじゃ」
水を飲み続ける?
そ、それはかなり苦しいに違いない。
「そうじゃ……。わしらはそれでもええ。この人たちよりも、魔力の出力量が大きいからな」
「ならてっとり早く、彼らを外界へと移せば……」
兄さんは魔法を使用する。
あっという間に次元のトンネルを使った。
だが、長老は手を振る。
「やめておけ。今、外界に行ったら、取り込んだ魔力が溢れて弾けるぞ」
「ええ!! じゃあ、どうすればいいんですか?」
このままじゃみんな、可哀想だ。
折角リナリルさんは、お兄さんに会えたっていうのに……。
「簡単なことじゃ。取り込む魔力を抑えてやればいい」
長老は【便利袋】という魔法を使う。
空間に何でも閉まっておけるという魔法だ。
英雄村のみんななら、誰でも使える。
ぼくも2歳の時に習得した。
そこから取りだしたのは、本だ。
随分大きな植物事典だった。
それをペラペラとめくる。
「じいさん、本なんて持ってるのかい?」
英雄村の人間が本を持つことはない。
1度読めば覚えることが出来るからだ。
「若いお前にはわからんだろうがな。年を取ると忘れっぽくなるのだ。だから、こうやって本を残しておく方がいいぞ」
アドバイスする。
長老はもう1000年近く生きている。
勇者様にも子供の頃に出会ったことがあるらしい。
そうか。
年を取ると忘れっぽくなるのか。
ぼくも気を付けよう。
長老は「これじゃこれじゃ」といって、あるページを見せる。
そこには「フェールト草」という葉が特徴的に描かれていた。
「この葉を煎じて飲めば、魔力過剰症が治るはずじゃ」
「『フェールト草』なんて初めて聞いたぞ」
兄さんは事典を睨むが、首を傾げるばかりだ。
そんな!
スライダル兄さんでも知らない草があるなんて。
すると、長老はぽこんと兄さんのおでこを叩く。
「愚か者め。お前は強すぎるのだ。『フェールト草』を弱い薬草と思って、鑑定ができておらんのよ」
「そ、そうなのか……」
強すぎる兄さんは、がっくりと肩を落とす。
長老が次に指し示したのは、ぼくだった。
「エイス。お主ならちょうどいい。見つけることができよう」
「ぼ、ぼくが!?」
「何を驚いておる。そもそもお主が連れてきたのだ。仲間のピンチを救うのは、お主の役割ではないか?」
…………。
そうだ。
長老の言うとおりだ。
リナリルさんが苦しそうなんだ。
『鯨の髭』の仲間たちがピンチなんだ。
ここでぼくが助けないで、誰が助けるんだ。
「わかりました。ぼくが行きます」
「うむ」
「よし。俺も手伝う」
兄さんはどんと胸を叩いた。
「いいの? 兄さん?」
「弟のお客さんなんだ。お前の兄として放っておけない。それにお前を、おいそれと村の外に出すわけにはいかないからな」
うん……。
確かに。
薬草があるっていう場所は、Sランク以上の魔物だらけの場所だ。
さすがのぼくも、1人では難しいかもしれない。
「わかったよ、兄さん。お願いします」
「よし! 任せろ!」
「エイス……くん……」
リナリルさんの声が聞こえた。
苦しそうだ。
それでも目を開けて、ぼくを激励してくれる。
「気を付けて……」
「はい。大丈夫です。絶対にみんな助けます!!」
こうしてぼくは、リナリルさんたちを助けるため、久しぶりに村の近くの森へ行くことになったんだ。
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