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その村人は、王都の「普通」がわからない  作者: 延野正行


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第35話 弱いが異常なんて“普通”じゃない!

「ここだ」


 兄さんに案内されてやってきたのは、ぼくの実家だった。

 なんてことはない。

 小さな一戸建て。

 外装はミスリル製だ。

 10個の魔法エンチャントがかかり、有事と引っ越しの時は転送も可能。

 熱にも冷気にも強く、自動で害虫を食ってくれる精霊虫もいる。


 ごく“普通”の家だ。


「……ん? どうしたの、マリルー?」


 何故か、半目でジッと睨まれている。

 腕を組んで、ふんと鼻息を荒くした。


「私、ツッコまないからね」


 憮然としながら、ぷいっと顔を背けた。


 え? なんで?

 どうして怒ってるんだろう。


 ぼくたちは家の奥へと進んでいく。

 懐かしいなあ。

 何も変わってないや。

 時が止まったみたいだな。


 それもそうか……。


 英雄村と外界とは、時の流れが違う。

 村の中では村人たちの力によって、時を緩やかにしているんだ。

 だから、ぼくが出て行ったのは、つい先日ということになっていた。


「あれ? どうしたの、エトヴィン?」


「む……。ん? いや、その……。ツッコまないから色々と……」


 ぷいっと顔を背けた。


 マリルーと同じ反応だ。

 あれ? ぼく、何かしたかな?


 リナリルさんのお兄さんは、ぼくが使っていたベッドで眠っていた。

 硬く目を閉じ、規則正しく寝息を立てている。


 その姿を見て、リナリルさんは目頭を熱くした。

 そっとお兄さんの手を取る。

 かすかに反応したような気がしたけど、お兄さんの瞼が持ち上がることはなかった。


「発見した時に随分と衰弱していてね。心臓は止まっていたし、脳も停止していた」


「え? それって死んでるってことじゃ……」


 マリルーが反射的に質問する。

 スライダル兄さんは「HAHAHA」と大らかに笑った。


「それぐらいじゃ死んだことにならないよ。彼の魂は生きていたからね」


「魂が生きていたら、生き返るんですか?」


「そうだね。そうすると、初めて死んだことになるかな。だが、まあ問題ないだろう。死神と交渉するか、ぶん殴ればまた魂を元に戻せる」


「死神と交渉……」


「ぶん殴る……」


「はぅ……!」


「さすが英雄村……。普通じゃないな」


「「え? “普通”だと思いますけど……」」



 “普通”じゃない!!



 ようやくツッコまれた。

 いつもの『鯨の髭』の仲間達に戻ったようだ。

 このツッコミがないと、最近落ち着かなくなったよ。


「HAHAHA。エイスよ。なかなか面白い仲間たちだな」


「兄さん、それって多分王都では“普通”じゃないんだと思うよ」


「そうなのか? うーん。難しいな、王都の“普通”は……」


 兄さんも首を傾げる。


 なるほど。

 兄さんですら、王都の“普通”は難しいのか。

 それならぼくにとっても難しいはずだ。


「と、ともかく……。兄は助かるのでしょうか?」


 リナリルさんは尋ねた。

 その顔は真剣だ。


「肉体的にも、精神的にも再生は済んでいる。栄養状態も問題ないはずだ。だが、1つだけ問題がある」


「え? 問題? それはなんですか?」


 不安げにリナリルさんは、スライダル兄さんを見つめた。


 兄さんは、いつになく神妙な表情を浮かべている。

 顎に手を置き、うーんと首を傾げた。


「それがわからないのだ」


「え? 兄さんでもわからないの?」


 ぼくは驚いた。


 スライダル兄さんは、とても強い。

 古代の言語にも精通しているし、知識量も村の中ではトップクラスだ。

 成長速度も速く、生まれて1秒でこの世のすべてを理解したという。


 けれど、そんな兄さんがわからないことがあるなんて……。


 フォルデュナンテさんは、そんなに深刻な病気を抱えているのか。


「病気かどうかもわからない。もしかして呪いかもしれない」


「え? でも、そんな感じには見えないわよ」


「そうだ。顔色もいいし」


「はぅ……。呪いを受けている様子もありません」


 村の仲間達は口々に意見する。

 ぼくも同意見だ。

 【鑑定】を起動したけど、何か問題があるようには見えない。


 でも、兄さんが言うのだ。

 きっと何か問題があるはず。

 スライダル兄さんにしか見えていない何かがあるはずだ。


「一体、何が問題なの? 兄さん」


「うーん。それはな、エイス」


 兄さんは顎を撫でながら、神妙に言い放った。


「この人は弱すぎるのだ!!」



 …………え?



「見ろ! この貧弱な身体! 腕! こんな筋肉では、ワイバーンですら素手で倒せないぞ」



 あ、あの……。



「魔力量も低い。これではキングスライムにすら勝てない。村を出た瞬間に、殺されてしまう。よくこんな弱っちい姿で生きて来れたものだ……。いや、これは違う。きっと、何か呪いを受けたのだろう。オレはそう考えて、色々と解析をしているところだ」


 …………。


 …………。


 えっと……。

 なんていったらいいかな。

 うん……。兄さんの気持ちはわかるんだ。

 ぼくも王都に初めて到着した時、似たようなことを思ったから。


 けどね……。

 兄さん、違うんだ。

 これだけは、はっきりさせておくよ。


 フォルデュナンテさんが問題なんじゃなくて、兄さんが異常なぐらい強いんだよ、世間的には……。



「な、なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉおぉおぉおぉおぉおぉおおおおお!!」



 兄さんは叫んだ。

 それで地震が起きた程だ。

 村の建物の強度なら問題ない。

 けれど、王都ならもしかしたら、壊滅していたかもしれない。

 それぐらい恐ろしいものだった。


 声だけで王都を壊滅できる。


 それがぼくの兄。

 スライダル・フィガロの“普通”じゃないところだ。


初手申し訳ありません。

しばらく更新をお休みさせていただきます。

色々とお仕事が重なったり、確定申告とかあったり、

2月は忙しくて……。

なので、次回更新は3月11日を予定しております。

しばらくお待ち下さい。


ちなみに、延野の最新作である『劣等職の最強賢者~底辺の【村人】から余裕で世界最強~』の書籍化が決まりました。

こちらは現在、隔日で更新しております。

『その村人は、王都の「普通」がわからない』ともども応援いただければ幸いです。

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