第34話 英雄村が“普通”なんて“普通”じゃない
お待たせしました。
インフルで1週休んでおりました。
連載を再開します。
いつも周りから“普通じゃない”っていわれるぼくも、今回の件に関しては“普通じゃない”って思った。
長年、リナリルさんたちが調査していた遺跡が、英雄村の別荘で、しかもリナリルさんが探していたお兄さんが、村のベッドで寝ているという。
なんでも、別荘地と英雄村が魔法で繋がっているらしい。
昔のご先祖様が、次元系の魔法で繋いでしまったそうだ。
さすが、魔王をワンパンで倒したぼくのご先祖様。
やることも、“普通じゃない”。
そのことをマリルーたちに報告した。
案の定――。
「「「普通じゃない!!」」」
という叫び声が聞こえてきた。
今回ばかりはぼくも同感だ。
いつも驚くみんなの気持ちが少しだけわかった。
「それでどうするんだ?」
エトヴィンは尋ねる。
小熊族特有の丸い耳をピクピク動かしていた。
冷静な表情とは裏腹に、何かを期待するように尻尾を振っている。
「どうするって?」
「決まってるじゃない! 英雄村に戻るの?」
マリルーは瞳を輝かせる。
興味津々といった様子だ。
「うん。一応ね。リナリルさんと一緒に行くつもりだよ」
「そうか。リナリルと一緒に故郷へ帰るのかー。ふーん。そーか」
マリルーはぐるぐるとぼくの周りを回り出す。
えっと、何かな。
何が言いたいのかな。
今日のマリルーは“普通”じゃないというか……。
「ど、どうしたの、マリルー?」
「わからない?」
「う、うん」
「そう。じゃあ、ロザリムが代弁してくれると思うわ」
わしっと小さなロザリムの肩を掴んだ。
やや臆病なエルフの女の子は、ひゃっと背筋を伸ばす。
ぼくと向かい合うと、真っ白な顔を真っ赤に染めた。
ロザリムはいつも通り「はうぅ……」と困った顔を浮かべる。
「えっと……。えっと……。えっと……」と同じ言葉を何度も繰り返した。
すると、マリルーに背中を押される。
「ほら! ロザリム、言いたいことは、はっきりいいなさい」
「は、はうぅ……。えっと……。エイスくん」
「ん?」
「ろ、ろろろろろロザリムも、エイスくんの村に行ってもいいかな」
「英雄村に……」
「だ、ダメかな……。そ、その迷惑になるし。ろ、ロザリムじゃ、そのぅ……ぅぅ」
どんどん声が小さくなっていく。
エルフ耳が、力無く垂れた。
「別にいいよ」
「え? いいの!?」
ロザリムの目が輝く。
耳が引っ張れるように、ピンと横に伸びた。
「うん。大丈夫だよ。迷惑でもないし」
「はうぅ……」
ほっと安堵の息を吐く。
「ロザリムがいいなら、私たちもオッケーよね」
「だな……」
マリルーとエトヴィンも立候補する。
どうやら、2人もぼくの故郷に興味津々らしい。
勇者の子孫たちが住む村に行ってみたいのだそうだ。
「でも、案外あっさりだったわね。てっきり私、断られるのかと思っていたわ」
マリルーは席に座る。
机に置かれたお茶を啜った。
「どうして?」
「だって、エイスってさ。あんまり村のことを喋ったりしないじゃない。時々、比べたりすることはあるけど。何か理由があるのかなって」
「うーん。特にないけどなあ」
ていうか、村の話をすると、大体の人が信じてくれないから。
ぼくとしても話しにくいんだ。
「どうやって、村まで行くんだ?」
エトヴィンも、マリルーの前に座ってお茶を飲む。
ロザリムも、ほっと一息を吐き、ぐっとお茶を飲み干した。
緊張していたのだろう。
「別荘の次元のトンネルを使って、村に行くつもりだよ」
「なるほど。じゃあ、ひとっ飛びだね」
「うん。その方が安全だよ」
だって、村の周りには、SランクやAランクの魔獣がうようよいる。
正直、マリルーたちの実力や装備じゃ歯が立たないだろう。
その話を聞いて、マリルーはティーカップを置いた。
プルプルと震えている。
「もし、その魔獣に遭遇していたら、私たちどうなるの?」
「たぶん、パーティーは全滅していただろうね」
「あっさり不吉なこといわないで!」
「む、村は大丈夫なんだろうな」
な、なんでだろう。
急にみんなの顔が引きつりだしんだけど。
さっきまで、あんなに楽しそうにしていたのに。
「大丈夫だよ。村の中にいれば、安全だから」
「それって、村の外は危険ってことじゃない」
危険じゃないかな。
たぶん、超危険だと思うよ。
「「「普通じゃないよ!!」」」
いや、割と“普通”だと思うんだけどなあ。
◆◇◆◇◆
「んー。なんだ、人が増えたのか?」
兄スライダルは、顎を撫でた。
ぼくは1人ずつ『鯨の髭』の仲間たちを紹介する。
黙って聞いていた兄さんは、こつんと弟の脇を叩いた。
「なんだよ、エイス。村から出て、寂しい想いをしてるかと思ったけど、可愛いカノジョを3人も連れてきやがって。自慢か?」
「か、かかかかかカノジョ?」
「なんだよ、お前のこれじゃないのか?」
小指を1本立てた。
「そ、そんなんじゃないよ。言ったろ。リナリルさんは女王様で、マリルーたちはパーティーのメンバーだよ」
「ふーん……。で? どの子が本命なんだ。やっぱ年上のあの子か?」
と、年上……!?
いや、そういわれても、全員ぼくより年上なんだけど……。
「ほら。あのぼんやりとした最初に会ったおなごだ」
「ああ……。リナリルさんか……。――って兄さん」
ぼくは思いっきり兄さんに突っ込む。
無意識に拳で殴ったそれを、スライダル兄さんは軽々受け止めた。
「かっかっかっ……。まあ、いいや。村に着いたら、色々話を聞かせてくれ」
はあ……。
なんていうか。
身内だからかな。
1番調子狂うよ、兄さんには。
「さーて。適当に弟をからかったところで」
ひどい!!
「みなさん、英雄村にご招待しましょうか」
兄さんはピンッとデコピンをした。
膨大な魔力が空間に叩き込まれる。
空気を斬り裂き、現れたのは真っ暗なトンネルだ。
「な――!」
「ちょ! 今のって」
「はうぅ……! 呪文の詠唱なしに、次元魔法を構成してますぅ」
早速、みんなは驚く。
リナリルさんもごくりと唾を飲んだ。
「さすが、エイスくんのご家族といったところか」
いよいよぼくたちは、兄さんが作ったトンネルの中に入っていく。
みんな怖がるかと思ったけど、大丈夫そうだ。
マリルーは目を爛々と輝かせて、妄想している。
「英雄村ってどんなところなんだろう」
「はうぅ……。想像も出来ないです」
「やはり、エイスみたいに強い人がいるのだろう」
「いつもエイスが『ミスリル。ミスリル』ってうるさいから、要塞みたいな村かもね」
「確かにあり得るな」
「別に普通の村だと思うんだけど」
「「「エイスの“普通”が1番当てにならないんだよ!!」」」
『鯨の髭』の仲間から、総ツッコミを受ける。
仲間なのに……。
ぼくってそんなに信用ないかな。
「お前さんたち、もうすぐ到着だぞ」
兄さんは指を差す。
段々と光が見えてきた。
ぼくたちはそれをくぐり抜ける。
現れたのは、緑豊かな農村だった。
綺麗に整えられた畝。
木を蔓だけで縛った柵。
鍬を持った人が田畑を耕し、子供の声が響き渡る。
三角の屋根付いた煙突からは煙が出て、ゆっくりと東へと流れていた。
なんとも牧歌的な風景が広がっている。
奥の方で繋がれた牛が、大きく欠伸をしていた。
どこにでもある“普通”の村だ。
ぼくはくるりとみんなに翻った。
ちょっと自慢げに軽く胸を反る。
「ね? “普通”の村でしょ」
だが、みんなは口を開けて驚いていた。
“普通”なのが、“普通”じゃない!!
静かな村の前で、仲間たちは絶叫するのだった。




