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その村人は、王都の「普通」がわからない  作者: 延野正行


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第29話 魔族を利用するなんて“普通”じゃない

1週休んですいません。

バナシェラ王国篇、決着です。

「ま、魔族……!」


 口から恐怖を漏らしたのは、大臣だった。

 よたよたと後ろに退がる。

 忠義を尽くしていた主君の皮膚の下から、魔族が現れた。


 大臣はおろかぼくを除く全員が驚いていた。


 うーん……。

 そんなにビックリすることなのかな。

 入った時からぼくはわかっていたけど。

 みんな知らないフリをしているのかと思ったほどだ。

 いや、もしそうならそれが“普通”なのかもしれない。

 よし。驚いておこう。


「わあ! ビックリした!!」


「何をエイスが驚いてるのよ。自分でやったんじゃない」


 マリルーに怒られる。


「いや、ここでビックリするのが“普通”なのかなって」


「そ、それはそうだけどな……。すまん。俺から何をいっていいのかわからん」


 エドウィンは頭を抱える。


 本当ならここで「はうぅ!」という声が聞こえてくるはずなのだけど、一向に聞こえてこない。


 振り返ると、ロザリムは恐怖におののき、半分失神しかけていた。


「ろ、ロザリム! 大丈夫!?」


「は、はうぅ……。だ、大丈夫ですぅ」


 声をかけると意識を取り戻す。

 それでも、身体をガタガタと震わせていた。


 すると、黒い風のようなものが通り過ぎる。

 魔族に向き直ると、猛禽のような瞳を尖らせ、猛っていた。


「よくも妾の正体を見破ってくれたな、人間」


「?? 正体も何も最初からバレバレでしたよ。みんな、騙されていたフリをしていただけです」


「な!? そ、そうなのか?」


 魔族は慌てた様子で周囲をうかがった。


 すると、皆さん全員ぶるぶると首を振る。

 横に、だ。


「ち、違うといっているではないか!?」


「え? 違うんですか?」


「エイス、悪いが……。お前が喋ると話がややこしくなるから黙っててくれ」


 エドウィンに引き留められた。


 な、なんで??


「本物のお兄さまはどうした?」


 代わりに尋ねたのは、リナリルさんだ。

 早速核心を突く。


「ふん。お前の兄のことなど知らないわ。人のことよりも、自分たちの命を心配した方がいいのではなくて。お前たちの前にいるのは、ルードガス魔帝国が誇る四将なのよ」


「「「四将!!」」」


 再び王の間はざわめく。


 四将? 四将ってなんだろうか?


「あの……。四将ってなんですか?」


「な! 帝国四将を知らないのか、貴様!?」


「すいません。元々村人なので……」


「エイス、四将っていうのは、ルードガス魔帝国で魔王の次に強いといわれる将軍たちのことよ」


「俗に言う四天王ってヤツだな」


 マリルーとエトヴィンが解説してくれる。


 ああ……。四天王か。

 そういう名前なら聞いたことがある。

 村のおじいさんもいっていたな。


「最初に出てきた四天王が1番弱いって!」


「な――! な、なな……なんですって!!」


「お、おい!! 人間! これ以上、魔族を刺激するな!!」


 魔族どころか、大臣にまで怒られてしまった。


 いや、ぼくがいったんじゃないからね。

 村の――ドラゴンの尻尾焼きで晩酌するおじいさんがいってただけなんだから。


「妾の名前は『美惑』のスピアブライド……。知らないのであれば、教えてあげましょう。妾の恐ろしさをな!!」


 スピアブライドは手や足を、艶めかしく動かす。

 壇上で踊り始めた。

 身体を蛇のようにくねらせる。

 赤い魔力が放射されると、王の間全体に広がっていった。

 それだけじゃない。

 魔力の波動は、部屋を突き抜け、国全体に伝播する。


 すると、突然周囲のエルフたちが呻き始めた。

 さらに、マリルーやエトヴィン、ロザリムやリナリルさんまで様子がおかしい。


 瞳に輝きがなくなる。

 意識がない。そんな感じだ。

 やがてゆっくりと動き出す。

 口からうめき声を上げながら、ぼくの方に近付いてきた。


「みんな、どうしたの?」


「ほう。妾のテンプテーションに抗うか、人間。とぼけた顔をしているが、相当な実力者なのだろう」


「ぼく自身は、割と“普通”の村人だと思ってるんですけどね」


 どちらかというと、周りが“普通”じゃないと思うんだけどなあ……。


「まあ、いい。だが、如何にお前が強かろうと、周囲の者に危害を加えるわけにはいかないだろう」


 確かに困ったことになった。

 マリルーたちや、リナリルさんを傷つけるわけにはいかない。

 なのに、テンプテーションに操られた人たちは、すでにぼくを囲んでいた。

 拳を向け、あるいは武器の切っ先を向けている。


「がああああああ!!」


 獣のような声を上げて、まず襲いかかってきたのは、リナリルさんだ。

 目が正気じゃない。

 さらに、『鯨の髭』のメンバーが次々と飛びかかってくる。

 そこにエルフの衛士や、大臣たちが加わった。


「あはははははは! 無様ね、人間。強いといっても、所詮は下等生物。いくら背伸びしたところで、我ら魔族にはかなわないわよ」


「くそ! どうしてこんなことをするんだ!?」


「そんなの簡単よ。魔族以外の種を滅ぼすため。再び魔族でこの世界を満たすためよ」


「リナリルさんのお兄さんはどうしたの!?」


「知らないわよ。妾は、行方不明になっている第一王子に成り代わり、テンプテーションを使ってバナシェラ王国を混乱させ、諸外国から孤立させろ。――そう魔王様から命じられただけ。王子様の行方なんて興味ないわ」


「お前たちが手をかけたんじゃないのか?」


「それはないわね。……でも、その遺跡とやらで、今頃野垂れ死んでいるんじゃないの?」


「そうか。まだ、フォルデュナンテさんが生きている可能性があるってことだね」


「あなた、もうすぐ死ぬっていうのに……。どうして、死んだかもしれない人間なんて心配しているのかしら」


「はい。もう結構ですよ。聞きたいことは聞けたので……」



 パンッ!



 破裂音が王の間に響く。


 すると、カッと目を開けた。

 ぼくじゃない。

 四将スピアブライドだ。


 まだ意識がはっきりしない魔族は、周囲を見渡す。

 ぐるりと、エルフの衛士が取り囲んでいた。

 その中には、ぼくの仲間やリナリルさんもいる。


「な、なんだ? なにが……」


 ハッと身体を動かす。

 身じろぎするも、魔族は動けない様子だった。


「動けないと思いますよ。束縛系の魔法をかけましたから。あと、魔法やスキルも封印させてもらいました」


 忠告したにも関わらず、スピアブライドは抵抗する。


 無駄なのに……。


 魔族って、もっと強いって思ってた。

 これが“普通”なのだろうか。


「い、一体何が起こったのだ? 妾らのテンプテーションは?」


「ぼくが全て跳ね返しました。あなたは自分のテンプテーションにかかって、ぼくの尋問に答えていただけです」


「なッ――――なにぃ!?」


「別に驚くようなことじゃないです。“普通”です」


「“普通”であってたまるものか!? 妾のテンプテーションは回避不可能の魅了属性魔法なのだぞ。魔王様にも褒めてもらえた最高級の……」


 そんなこといわれてもな。


 キラーサキュバスっていう、主にサキュバスや若い女の人を捕食する習性がある魔獣がいるんだけど、その体臭に比べたら、普通の空気と変わらないんだけどな。


「貴様……。本当に何者だ!?」


「だから、“普通”の村人ですよ」


 この問答って、前にもやらなかったっけ。

 いい加減飽きてきたんだけど。

 服に縫い込んでおこうかな。

 「普通の村人」って。


「他に何か聞きたいことがありますか、リナリルさん」


「いや、他にはない。お兄さまの失踪に魔族が絡んでいないことを確認できていれば十分だ。あとは、この魔族に罪であがなってもらおう」


「ま、待て! 妾はまだ死にとうない。ど、どうか命だけは……」


「心配するな、ブライドスピア。お前の命は助けてやる」


 そう言ったのは、リナリルさんだ。

 故郷を無茶苦茶にされたのに、なんて優しいんだろ。


 ぼくが感激していると、リナリルさんはこちらを向いた。


「エイスくん。この女を完全に魅了しろ」


「へ?」


「出来ないのか?」


「出来ると思いますけど……。それはどうして?」


「簡単なことだ。バナシェラ王国にやったことを、今度はこっちがルードガス魔帝国にしてやるのだ」


 な――なるほど!


 それはいい案かもしれない。


 感心するぼくの横で、マリルーが肩を竦めた。


「さすがはリナリル。結構えげつないことを考えるわね」


「これぐらいは“普通”だ。目には目を……。歯には歯を……。野蛮な考え方だが、内政干渉した野蛮な国には、もっとも効果的なやり方だ」


「ひ、姫! それではバナシェラ王国とルードガス魔帝国は戦争に突入してしまいますぞ」


「戦争ならとっくに始まっているぞ、大臣。それにスピアブライドのことを話せば、各国の理解も得ることができよう。十分な兵力も確保できるはずだ」


「しかし……。我々には王がいません。御印なき戦争は、兵の士気を下げます」


「それは――」


 リナリルさんは言い淀む。


「考えるまでもないでしょ、リナリル。あなたがやればいいのよ」


「しかし! わたしは、故郷を捨てた……」


「言い出しっぺは、あんただ」


「はうぅ……。ロザリムも、リナリルさんがいいと思います」


「お前たちまで……」


「姫様……」


 大臣や衛士たちが、リナリルさんの周りに集まってくる。

 すると、その場に跪いた。


「姫様に向けた数々の無礼、許されるものではありますまい。しかし、今リナリル様を置いて、国を率いる者はおりません。この度の一見の責は私にあります。ですが、どうか国と民のために、バナシェラ王国を率いていただくことはできませんでしょうか。どうか……。どうかお願いいたします」


 大臣は深々と頭を下げた。


 リナリルさんはなおも戸惑っている。


「ぼくは賛成です、リナリルさん」


「エイスくんまで……。わたしは王の器では……」


「関係ないですよ。リナリルさんは、とても一生懸命です。きっとバナシェラ王国を率いていけます。ぼくも協力しますから」


「私たちも手伝うわよ、リナリル」


「安請け合いはしないがな。ただし友人として、クエスト料はまけておいてやるよ」


「はうぅ……。リナリルさんがエルフの女王になるなんて、素敵です」


「お、お前たち……」


「みんな、リナリルさんを認めているんですよ」


 ぼくはいうと、皆が一斉に頷いた。


 全員に説得され、とうとうリナリルさんは決心を固める。


「わかった。微力ながら、バナシェラ王国のために人肌脱ごう」


 大きな歓声が上がる。


 その日、新女王の誕生に国中が沸き返った。


バナシェラ王国篇がひとまず決着がついたので、しばらく更新を停止します。

ここまでお読みいただいた方ありがとうございます。

続きに関しては、活動報告およびTwitterの方で告知させていただきますので、

誠に申し訳ありませんが、今しばらくお待ち下さい。


一応、次の展開諸々はすでに書き始めているので、エタることないことだけは、お伝えいたします。


現在、新作『転生賢者の最強無双~劣等職「村人」で世界最強に成り上がる~』を毎日更新しております。しばらくの間、こちらを楽しんでいただければ幸いです。


よろしくお願いします。

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