第2話 王都の“普通”は厳しい
昼集計で総合38位でした!
まだまだ頑張ります!!
2018/08/20 改稿&サブタイ変更しました。
仮発行されたステータスカードを見る。
「F」ランクと書かれていた。
1番下のランクだ。
でも、ぼくは嬉しかった。
ギルド登録者になれた。
これから案内人以外の仕事が出来ると、ワクワクする。
一番下のランクとはいえ、ちゃんと仕事があるのだという。
これはとても喜ばしいことだ。
「そんなに登録者になれたことが嬉しいのか?」
といったのは、前を歩くリナリルさんだ。
腰を捻り、45度ぐらいに首を傾げて、にやけたぼくに忠告する。
リナリルさんはぼくが初任務ということで、付き添いで来てくれた。
先方とは知り合いらしく、挨拶も兼ねているそうだ。
2人で大通りを歩く。
なんかデートしてるみたいで、ちょっと照れくさい。
ぼくはこっそりとリナリルさんの横顔を覗いた。
若干眠たそうだけど、いつ見ても綺麗だ。
ハープの弦のみたいに伸びた金髪が風に揺れると、キラキラと輝いていた。
すると、ぼくと視線が合う。
「ん? なんだ? わたしの顔に何か付いているか?」
「いいいいいい、いえいえ。なんでもないです!」
「まあ、いい。……ほら、着いたぞ」
ぼくとリナリルさんのデートは、突然終わりを告げる。
やってきたのは、街の外れにある山だった。
鬱蒼と木が茂っていて、中は少し薄暗い。
遠くの方から、野鳥の声と共に、何か獣の声が聞こえてきた。
その麓で待っていたのは、3人のおばあさんだ。
籠を片手に談笑している。
ぼくたちに気付くと、1人のおばあさんが手を振った。
「リナリルちゃん、こっちこっち!」
「遅れてすまない、アミナさん」
「この子が助っ人?」
「エイス・フィガロです。今日はよろしくお願いします」
ペコリと挨拶する。
「まあ、可愛い子」
「礼儀正しいし」
「この前、連れてきてくれた冒険者とは全然違うわね」
やんややんやと声を上げる。
歓迎してくれているらしい。
「えっと……。ぼくは何をすればいいんでしょうか?」
「あら? リナリルちゃんから聞いてないの?」
「現地で説明した方がいいと思ってな」
こほん、と咳を払って、リナリルさんは言葉を添えた。
アミナさんは笑みを浮かべる。
「そう。でも、簡単なお仕事よ。この葉を摘んで、採ってくれたらいいの」
団扇のような丸い葉を見せる。
つまりは、薬草の採取ということだろう。
「苦手ですけど、頑張ります」
「まあ、頼もしい助っ人さんだこと。やる気があることはいいことよ。この草を見つけてくれるだけでいいの。私たちは、一杯生えてるところを知ってるから」
早速、アミナさんに連れられて、山を昇り始める。
薬草が生えてる場所には、目の前の森を抜けなければならないらしい。
随分と薄暗いな。
おばあちゃんたちは大丈夫だろうか。
ぼくがキョロキョロと警戒していると、逆にアミナさんに声をかけられた。
「大丈夫。この辺りの魔獣はとても弱いから」
「そうだよ。出てきても、あたしの魔法でやっつけてやるよ」
「そんなことをしなくても、今日はリナリルちゃんがいるんだ。大丈夫さ」
「頼りにしてるわよ、リナリル」
「今日は特別ですよ」
リナリルさん、すっごく頼られている。
それに魔法が使えるのか。
ギルド職員ってなんでも出来るんだなあ。
さすがリナリルさんだ。
「ところで、あんたたち付き合ってるのかい?」
「付き合う? そ、そそそそそんなことあ、ありえませんよ」
「動揺するところがあやしいわね」
「最近の若い子は手が早いから。C? それともBまでいったのかい?」
ぼくの顔が熱くなる。
覗き込むおばあさんの瞳に、顔を真っ赤になったぼくが映っていた。
対して、リナリルさんは淡々としている。
「昨日、会ったばかりですよ。あまり新人をからかわないでくれ」
「なーんだ? つまらんのう」
「ババアの枯れた人生に、一時の潤いぐらい与えてくれてもバチはあたらんぞ」
すると、アミナさんはつと足を止めた。
顔面が蒼白になっている。
硬直させた身体をなんとか動かし、指を差した。
そこにいたのは、四肢の地面につけた獣だった。
顎門からは大きな牙が出ている。
虹彩のない瞳は、赤く光っていた。
「ソードライガーだ!!!!」
「こんなところに、なんでCランクの魔獣がいるんじゃ!」
おばあさんたちはパニックになる。
アミナさんは甲高い悲鳴を上げて、失神した。
冷静だったのは、リナリルさんだ。
おばあさんたちを守るように誘導を始めた。
ぼくは、ぼうと立ちすくむ。
あれれ~?
なんでみんな、慌てているんだろ?
「エイスくん! 何をしている? 逃げろ!」
リナリルさんは大声を上げる。
奇しくもその声が引き金になった。
ソードライガーという“猫”は、ぼくに向かってきたんだ。
ガシュ!
鋭い音が鳴る。
ソードライガーの牙がぼくの手に食い込んだ。
「エイスくん!」
リナリルさんの悲鳴じみた声を聞く。
ぼくは、残った手を高々とあげた。
獣の頭に手を乗せる。
そして、わしわしと撫でてやった。
「よーしよしよしよしよしよし! いい子だぞ」
みなさん、驚いているけど、なかなか可愛い猫じゃないか。
「この猫、飼ってみたいな」
「そんなもの飼えるわけないだろ!?」
「え? 王都ってペット禁止なんですか?」
「そういうわけじゃなくて、“普通”は飼わないんだよ」
そうか。王都ではペットなんて飼わないのか。
村では一家に1匹はいたんだけど。
王都の“普通”ってわからないなあ……。
「エイスくん、大丈夫なのか?」
「何がですか?」
「腕を噛まれてるじゃないか!」
「あー。甘噛みですよ。じゃれてるだけです」
ソードライガーがくわえている腕を見せる。
血は1滴も垂れていなかった。
ふふふ……。ちょっとくすぐったい。
さっきから「がうがう」と吠えながら、ぼくに懐いてくる。
そうか。きっと遊び相手が欲しかったんだな、お前。
すると、突然ガキィン! と音がした。
見ると、ソードライガーの大きな牙が折れていた。
歯抜けになった“猫”は、ぼくから離れていく。
「がううぅぅぅ!!」
悲鳴を上げながら、のたうち回った。
だ、大丈夫かな。
ぼくは手を伸ばす。
すると、その手に大量の毛が付着しているのがわかった。
ソードライガーの毛だ。見ると、頭の毛が抜けて、河童みたいに禿げが出来ていた。
あれれ~。ちょっと撫ですぎたかな。
優しくしたつもりなのに……。
遅れてソードライガーも、毛が抜けていることに気づく。
ガーンとショックを受けると、涙目になってどこかへ行ってしまった。
あらら……。
“猫”のおじいさんだったんだろうか。
歯が弱ってて、毛も抜けやすくなっていたんだろうね。
悪いことをしたな。
「大丈夫か、エイスくん!?」
リナリルさんが駆け寄ってくる。
ぼくの腕をそっと持ち上げた。
ちょっとだけ歯形がついているけど、無傷だ。
そんなことよりも、リナリルさんがぼくの腕を握っている方が問題だった。
自分の体温が上がっていくのがわかる。
「なんの傷もない……。君は一体?」
「そ、そうですね。……牙が折れちゃいました。かなりおじいさんだったんでしょうか?」
「おじいさん? ああ……。あのソードライガー、年寄りだったのか。(なるほど。それで無傷だったのか)」
「何か言いましたか?」
「いや、なんでもない」
「エイスちゃん!」
ぼくに抱きついてきたのはアミナさんだった。
他のおばあさんたちも、我先にと飛びついてくる。
さらに、おいおいと泣き始めた。
ええ? 一体、なんだろう?
なんでみんな泣いているの?
「ありがとうね、エイスちゃん」
「私たちを守ってくれたんだね。ありがとう。これでまた孫の顔が見られるよ」
「あなた、見た目とは違ってマッチョなのね。おばあさん、惚れ直しちゃったわ」
次々と、ぼくに感謝してくる。
いや、ぼくは“猫”と遊んでいただけなんだけどな。
むしろ、仕事中に遊んでいたことを咎めないのだろうか。
村であんなことをしたら、無茶苦茶怒られたのに……。
優しい人たちだな。
うん。なんか……。ぼく、この街でやっていけそうだ!
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