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その村人は、王都の「普通」がわからない  作者: 延野正行


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第23話 古代語の権威なんて“普通”じゃない

 実は学校という所に来るのが初めてだ。

 そもそも王都に来るまで、存在すら知らなかった。

 年長者が年少者に、自分の経験や世の中の一般常識を伝える。

 素晴らしい制度だと思う。


 ぼくの村には、学校などなかった。

 学習といっても、ほとんど自主学習みたいなもので、皆は口を揃えて「見て覚えろ」という。

 だいたい村の人は生まれた頃から何でも出来ていたから、教えるというのは不得意だった。


 それが村の“普通”なのだ。


 とはいえ、ぼくも教師をやるなど初めてだった。

 出来れば、生徒から参加したかったけど、何をどう間違えたのか、教師から始めることになってしまった。


『大丈夫。エイスの教え方は上手いわよ』


 といったのは、マリルーだ。

 確かに『鯨の髭』のメンバーは、ぼくが教えるようになって、メキメキと強くなっている。

 けれど、あまり実感がない。


 うーん。やはり心配だ。


 でも、学校の雰囲気は悪くない。

 古い本の臭いが染みついた学舎。

 歩くとみしりと軋みを上げる木の廊下。

 元気な学生の声があちこちから聞こえる。


 ぼくはワクワクしていた。


 案内してくれているのは、ここの教頭先生らしい。

 後頭部まではげ上がった頭を左右に振るようにえっちらほっちらと歩いている。


「ここです」


 引き戸を引くと、騒がしかった講堂が静かになる。

 次いでどよめきが起こった。


「何、あの子?」

「転校生?」

「そんなの聞いてないぞ」

「え? もしかして、あれが特別講師とか?」

「まさか?」

「ちょっと可愛い系かも……」

「でも、彼氏にするのはちょっとねぇ……」

「お金持ってなさそうだし」


 真っ黒な制服を着た学生たちが、こそこそと話し合う。

 教頭先生は「静粛に!」と生徒たちを諫めた。

 ようやく静かになったところで、ぼくを短い言葉で紹介する。


「担当のミヤッド先生がお休みのため、代役として先生が推薦して下さったフィガロ先生です」


「エイス・フィガロです。よろしくお願いします」


「先生は若いですが、古代語に精通しており、長年改名されてこなかったヤーラム文字の一部を翻訳することに成功しました。現在、世界中央学術研究所にて精査を待っているところです」


 ええ!? そんなことになっていたの。


 翻訳って、リナリルさんの部屋を片付けた時だよね。

 あれって、そんなに難しいものだったのか。

 村では割と“普通”に使われていたんだけどな。


 講堂内はまたざわつく。


「うっそ!」

「ヤーラム語ってあれだろ?」

「あと1000年は解読不可能だって……」

「やだ。結構、いい男じゃない」

「あたし狙ってみようかしら、逆玉!」


 すると、また教頭先生に「静粛に!」と一喝される。

 嵐のように騒がしかった講堂が、何事もなかったかのように静かになった。

 けれど、先ほどとは明らかに視線が違う。

 男の子は好奇に輝き、女の子は色目を送っていた。


 なんかやりにくいなあ。


「フィガロ先生、早速授業をお願いできますか?」


 ぼくにバトンを渡す。

 すると、「よっこいしょ」といって、初老の教頭は近くの空いてる椅子に座った。

 ぼくの方に身体を向ける。

 どう見ても授業に参加する様子だ。


「えっと……」


「ああ。お気になさらずに……。実は私も昔、古代語の研究をしておりましてな。是非先生の知見を拝聴したく。よろしいですかな?」


 すると、再びこそこそ話が聞こえてきた。


「教頭先生って、古代語の権威なんでしょ」

「今は違うけど……」

「それでも、古代語の研究では今でもトップクラスだって」

「リナリル先生をスカウトしたのも、教頭先生だって聞いてるぞ」


 げぇ……!

 古代語の権威ってことは、専門家ってことか。

 弱ったなあ……。

 リナリルさんをスカウトしたってことは、恩人ってことでもあるのか。


 無下には断ることは出来ないし。

 でも、やっぱりやりにくいなあ。



『君は“普通”に授業をしてくれればいい』



 これはリナリルさんが、昨日ぼくにかけてくれた言葉だ。


 うん。

 そうだ。

 とにかく、気を張らないで自然体でいこう。


「わかりました」


 ぼくは頷いた。

 すると、今度は1人の生徒が手を挙げる。

 垂れ目の男子生徒は、にやにやしながら、ぼくに質問した。


「せんせー。どうして、古代語の勉強が必要なんですか? 古代語よりも、現代魔法言語の習得の方が、よっぽど便利で、効率的だと思うんですけど……」


 どうだ、とばかりに男子学生はドヤ顔した。


 ぼくは質問の意味がわからず、首を傾げる。


「えっと……。現代魔法言語ってなんですか?」


「はあ??」


 男の子はあんぐりと口を開けた。

 途端、笑い始める。


「現代魔法言語を知らないって……。おいおい冗談だろ」


 ぼくを指差す。

 他の生徒もくすくすと笑っていた。

 先ほどのぼくに向けられた憧憬の視線は存在しない。

 明らかに嘲られていた。


 どうやら、王都では現代魔法言語が“普通”らしい。

 そういえば、マリルーやロザリムは変わった呪文を使っていたなあ。

 あれが、現代魔法言語なのかもしれない。


「じゃあ、ちょっと調べるから待っててくださいね」


「ははは……。今から辞書引いて調べるのかよ」


 【地形走査(サイトビジョン)】。


 魔法で作られた地図が生まれる。

 途端、静かになった。


「なにあれ?」

「魔法地図?」

「おい。あんな魔法あったか?」


 ぼくは【地形走査(サイトビジョン)】の検索機能を使う。

 【現代魔法言語】と打ち込むと、詳細が出てきた。


「へー。現代っていう割りには、300年前に出来た魔法言語なのか。……なるほど。平面系座標言語か。確かに習得は容易になるな。けど、これだと単一性質になるから、応用が利きにくいかもしれない」


 なるほど。理解できた。


「結論からいうと、現代魔法言語の方が簡単な言語でしょうね」


「は? 今ので、現代魔法言語を調べたのか?」


「はい、一応。基礎系の単一言語は今ので覚えましたけど、これって“普通”ですよね」


「“普通”じゃねぇよ! それを俺たちは3年で覚えるんだ!」


 3年もかけるの!

 たかだが10万文字ぐらいの単語を……。

 のんびりしてるなあ。

 村だったら、一瞬見ただけで暗譜しろとかいわれるのに。


「先生、そろそろ授業を進めてはいかがかな?」


 教頭先生が促す。


 そうだな。

 このままじゃ、授業が進まない。

 しかもここにいる学生は、ぼくよりも理解力が劣っているらしい。

 高速言語を使って、ヤーナム語を全部インプットしてもらおうと思っていたけど、諦めなければならないようだ。


「じゃあ、教科書を開いてください」


 予定を変えて、教科書の中のことを教えることにした。

 あらかじめ読んで内容は確認している。

 教科書というよりは、中身は古代語で書かれた掌編集だ。


 学生たちは、一斉に教科書を開いた。


 あれれ……?


 またぼくが首を傾げることが起こる。


「みなさん、なんで教科書を逆さにしてるんですか?」



「「「「ええ????」」」」



 3度講堂内にどよめきが起こる。


 え? なんで?

 驚くのは、ぼくの方なんだけど。

 どうして、逆さにしてるんだろう。


 やがて、笑いが起こる。


「せんせー。俺たちをからかってるの? 教科書を反対にして読めって。それって罰ゲームか何かなの?」


 ヘラヘラと笑ったのは、先ほどの男子学生だった。

 だが、突如別方向から声を上がる。


「はああああああああ!!」


 奇声を上げたのは、教頭先生だった。


「そうか! そうだったのか!? 我々は大きな勘違いしていた! 字が逆転していたのか。ふむふむ……。なるほど。つまり、あの単語の意味は――」


 教頭先生は興奮しきりだった。


 やがて立ち上がる。


「皆、聞くがいい。これはフィガロ先生が間違っているのではない。教科書とこれまで教えてきた我々が間違っていったのだ」



「「「「ええええええええええええええええええええええ!!!!」」」」



 絶叫が上がる。


 すると、教頭先生は椅子から立ち上がった。

 目には涙が滲んでいる。


「ありがとう、フィガロ先生。長年の疑問が今、ようやく晴れた。これで、面白くない、古くさい、なんか汚いといわれていた古代語分野が、また大きく発展しそうだ。ありがとう!」


 何度もぼくに向かって頭を下げる。


 いや、ぼくは“普通”のことをいっただけなんだけど……。


 王都の人ってなんでこうオーバーリアクションなんだろうか


学校篇はもうちょっと続くのじゃ。

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