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その村人は、王都の「普通」がわからない  作者: 延野正行


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第22話 魔法の学校が“普通”じゃない!

 『鯨の髭』に来た個人依頼の説明を聞き、さあこれからクエストの準備をしようという時だった。


「エイスくん、折り入って頼みがあるのだが……」


 突然、カウンター向こうにいるリナリルさんが切り出した。

 金色の髪はさらりとし、物憂げな視線をぼくに送っている。

 今日も麗しい。


 そんなリナリルさんが、ぼくを頼っている。

 少し――いや、とても嬉しかった。


「なんでしょうか?」


「実は、わたしの代わりに教鞭をとってほしいのだ」


「ぼくがですか?」


 先日、リナリルさんはギルドを無断欠勤してしまった。

 その事については事故として片づいたのだが、別の日に振り替えでギルドの仕事をしなければいけなくなったらしい。


 ただその日は――。


「学校で古代語を教えているといっただろう。その授業日と重なっていてな。その日は他校からの見学者もあって、休校にするわけにはいかないらしい」


「つまり、リナリルさんの代わりに、ぼくが授業をしろと。……出来るかな」


「君なら問題ない。むしろ、わたしよりも上手く教えられるだろう」


「そんなことは……」


「過度な謙遜は嫌味になるぞ、エイスくん。君の都合があえばだが……」


 正直にいうと、自信がない。

 人前で喋るのも、授業するのも初めてだし。


 でも、リナリルさんがぼくを頼ってくれているんだ。

 力になりたい。


「わかりました」


「よろしく頼む」


 そういった時のリナリルさんの目が、ギラリと輝いたような気がした。



 ◆◇◆◇◆



 授業する日がやってきた。

 ぼくが訪れたのは、王都の中にある魔法学校だ。

 ここで魔法や、先史時代の技術についての研究が行われているらしい。


 周りはぼくと同い年ぐらいの学生ばかり。

 綺麗な制服を着ていて、みんな上品だ。

 リナリルさんがいっていたけど、学生のほとんどが貴族の子供らしい。


 いいのかな、ぼく……。

 こんなところに来て。


 せめて服装を考えてくるべきだった。

 いつもの布の服だ。

 おかげですごく目立っている。

 横を通り行く生徒たちが、珍しそうにぼくの方を振り返っては笑っていた


「ちょっと君ぃ……」


 振り返ると、大きな男の人が立っていた。

 手に槍を持ち、腰には剣を下げて武装している。

 学校の守衛さんのようだ。


「こ、こんにちは」


「こんにちはじゃないよ。部外者の立ち入りは禁止だよ」


「えっと……。部外者といえばそうなのですが……。今日、リナリルさんの代わりに授業を受け持つことになりましたエイス・フィガロといいます」


 ペコリと頭を下げる。


 守衛さんの態度が変わらない。

 ますます疑惑の眼差しを向ける。


「リナリルさんの代わり? おかしいですな、そんな話聞いていませんが」


「え? 確かにぼくはリナリルさんに……」


 おかしいなあ。

 リナリルさん、連絡してなかったのかな。

 たまに抜けているところがあるんだよなあ、あの人。

 まあ、それも含めて可愛いけど……。


「この学校は魔法の学舎でもあると同時に、最先端の研究も行っている。君のように人畜無害そうな人間が、スパイだったなんていうことはよくある話だ」


「ぼくがスパイ……」


「とりあえずご同行願おうか?」


 守衛さんはくるりと背中を向けた。

 その正面には守衛室がある。

 そこでぼくを尋問する気なのだろう。


 弱ったな。

 もうすぐ授業が始まるのに。

 ぼくが休んだら、リナリルさんが怒られるよ。

 なんとかしないと……。


 えっと……。あ、そうだ……。


 ぼくは自分の服に魔法をかける。

 服の素材を変性させる。

 さらに形状を変化させた。


 出来上がったのは、学校の制服だ。


 よし! 完璧だ!


「あの……」


「うん? ――って、いつの間に着替えたんだ」


「着替えたんじゃないです。魔法で“変性”と“変化”を……」


「“変性”と“変化”……? うそを言うな。形状を変更する魔法など、小規模の陣を敷き、高度な錬成師でも今からやっても昼までかかるぞ」


 ええ? そんなに難しい魔法かな。

 村ではごく“普通”の魔法だし。

 子供でも使えるんだけど。


「そ、その人……。う、嘘をいってません!」


 突然、悲鳴じみた声が聞こえた。

 通りすがりの女学生が持っていた鞄を落とし、わなわなと震えている。

 何か化け物でも見るかのように、ぼくの方を見つめていた。


 どうやら、ぼくが魔法を使うところを目撃してしまったらしい。

 他数人の学生も固まっていた。


「その人、今何の魔法陣も組まずに、自分の服を変性させてました」


「馬鹿な……。そんなことが――」


「いや、俺も見たぞ。一瞬にして、服を変化させていた」


「い、一瞬で!!」


「しかも無詠唱……」


「無詠唱!?」


 あれれ? おかしいなあ?

 ぼく、そんなに“普通”じゃないことをしたのだろうか。


「ここって魔法の学校ですよね。これぐらいみんな“普通”にできますよね」


「「「出来るわけないだろ(でしょ)!」」」


 怒られちゃった。


 どうやら、“変性”と“変化”の魔法は、王都では“普通”のことではないらしい。


 すると守衛さんがポンと手を叩いた。


「そうか。君は“変性”と“変化”を専門的に勉強している生徒なんだね」


「へ? は?」


「制服を利用し、あのボロ切れみたいな服に変化させていたのか?」

「そうか。魔法が切れたなら説明が付くわね」

「なるほど。そういうことか」


 守衛と生徒たちは納得した様子で頷く。

 肝心のぼくはというと、事態を飲み込めていなかった。


 ぼくは単純に学校の制服を着れば、中に入れると思っただけなのだけど……。


「わかった。……そういうことなら仕方がない。今度から気を付けてくれたまえ」


「え? は、はい……」


 ポンとぼくの背中を叩く。

 すると守衛さんは再び背を向けて、守衛室の方へと歩いていった。


 と、とにかく誤解が解けたらしい。

 むしろ深まったようが気がするけ、、学校の中に入ることはできるのだ。

 よくマリルーがいっている「結果オーライ」ということだろう。


 じゃあ、改めて校舎に入るかという段になって、また声が横から聞こえた。

 眼鏡をかけた学生が、ズレをなおしながら、近付いてくる。

 何かタダならぬ雰囲気を感じた。


「待って下さい。今、この人……学校内で魔法を使っていたということになりませんか?」


「たしかに……」


「そういうことになるわね……」


 さっきの学生たちが呼応する。

 すると守衛さんは立ち止まった。

 不穏な空気を纏いながら、再びぼくの方に振り返る。


「この魔法学校では授業以外で魔法を使うことが禁止されています」


 ええ? 魔法の学校なのに、おかしくない!?


 ぼくがあたふたしていると、学生は説明を続けた。


「これは魔法による暴力行為をなくすためです。……そもそも――」


 眼鏡の学生は、ビシィと鞭を打つみたいにぼくの方を指差す。

 レンズをギラリと光らせ、叫んだ。


「校内には魔法の封印する結界が張り巡らされています。つまり、魔法を使えていることがおかしい!!」


 えええええええええええ!!!!??


「な! じゃ、じゃあ……」

「この人……。どうやって魔法を維持していたんだ!?」


 答えを求めるようにぼくの方を向く。


 いや、そんな顔をされても……。


 確かに魔法を封印する結界が張られていたことはわかっていた。

 だけど、結界の系統が圧力によって魔力を抑え込む術式で、ぼくからすれば、小石を持たされている程度の圧力でしかない。

 つまり、魔法を行使するのになんの問題もなかったんだ。


「答えなど簡単だ」


 再び眼鏡の学生はギラリとレンズを光らせた。


「この人の魔力が飛んでもなく強く、結界が抑え込めなかったからだ」


 うん。そうそう……。

 やっぱり魔法学校の生徒だけあって、理解が早くて助かる。


「つまり、この方(ヽヽヽ)はきっと……高名な魔導士なのだろう」


 んん????


「す、すいませんでした!!」


 土煙が上げながら、スライディング土下座をしたのは守衛さんだった。


 今にも嗚咽を上げそうな声で、まさしく平謝りをする。


「高名な魔導士とは知らず、とんだご無礼を……。どうかお許しを。私には生まれたばかりの赤ん坊が……」


 ぼくに縋り付く。


 周囲の学生も驚愕していた。


「その若い顔も、きっと魔法で制御しているんだわ」

「そうか。肉体も“変性”と“変化”をして」

「一体、どこの魔導士様なのだろうか?」


 口々にぼくを讃える。


 どうしよう。

 なんかすっごい勘違いしてるみたいなんだけど。

 ぼくはリナリルさんの代わりにやってきたんだけどなあ。


 はあ……。


 どうやら授業をやる前から“普通”じゃない雰囲気がしてきたぞ……。


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