第1話 ステータスが「普通」じゃない
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2018/8/20 改稿&サブタイ変更しました。
ぼくは大きな街にやってきた。
【地形走査】によれば、ここはレジアス王国の王都らしい。
高い壁の城壁。
広くて、綺麗に舗装された道路。
街の奥には、多くの塔が立ち並ぶ美しい建物が見えた。
どうやらあれが、レジアス王国の王宮のようだ。
ぼくは仕事を探すため、ギルドを目指した。
そこでは色々な仕事を斡旋しているらしい。
これだけ立派な街だ。
ぼくに出来る仕事なんてあるのだろうか?
せめて案内人の仕事に空きがあればいいのだけど。
【地形走査】を使って、無事ギルドに到着。
ぼくは、少し緊張していた。
ギルドは就職斡旋などもやっているけど、主な業務は冒険者に魔獣討伐の依頼をする場所だと、【地形走査】の概要欄に書かれていた。
きっと、この中にはたくさんの強い人がいるに違いない。
気を引き締めてかからないと……。
ぼくは意を決して、ギルドの扉を開けた。
中にはたくさんの人がいた。
奥にはカウンターがあって、数人の受付嬢が応対している。
壁際には、クエストが書かれた紙が貼り出されていた。
ぼくはホッとした。
割と普通の人ばかりだったからだ。
表情はどの人も険しいけど、眼光はとても優しかった。
でも、なんでこの人たち、金属の塊を身に着けたり、なんの強化魔法も施されていない武器を持っているんだろう?
あんなんじゃケルベロスの体皮にだって、傷つけられないのに。
これが王都では“普通”なんだろうか?
それになんだかずっと二の腕をさすっていた。
風邪か何かを引いているのだろうか。
「大丈夫ですか?」
「お、おう。ありがとうな、あんちゃん。いや、いきなり寒気がしてきてよ」
「おお……。お前もか。俺もなんだかやたら寒くて」
「室内の冷感魔法を強すぎなんじゃねぇか?」
「いや、なんかさ。上位魔獣に睨まれた時の恐怖っていうかさ……」
「俺、今日はもう帰るわ。明日、クエストだし」
「俺も!」
俺も、俺も、と続けて、ギルドにいた人たちは、出て行ってしまった。
後に残されたのは、ぼくだけだ。
受付嬢の人も、早退してしまったらしい。
弱ったな……。
これじゃあ仕事を探せない。
無一文で飛び出してきたから、一刻も早く仕事を見つけたいのに。
このままじゃまた野宿だよ。
すると、奥から人が出てきた。
手に珈琲カップを握った綺麗な女の人だった。
腰までスッと伸びた長い金髪に、宝石のような綺麗な紫色の瞳。
肌は真っ白で、それと対称的な真っ黒な魔導士の服を着ている。
顔の横にピンと張った耳が可愛らしい。
きっとエルフ族なのだろう。
村にはハーフエルフの幼馴染みしかいなかったから、純粋なエルフを見るのは、これが初めてだった。ちょっと新鮮な気分になる。
「なんだ? 誰もいないじゃないか? ……私も帰るか?」
「あ、あの……」
「うん? 君は?」
「し、仕事を探しに来ました。エイス・フィガロっていいます!」
「そうか。……仕方が無い。あーもー。折角の休憩時間がパァじゃないか」
エルフの受付嬢はカウンターの向こうに座る。
座りたまえ、とぼくにも席を勧めた。
初めて利用すると申告すると、エントリーシートと呼ばれるものを差し出し、記入するように説明した。
自分の名前と出身地、簡単な質問に答える。
記入を終えると、女の人に渡した。
ふと視線が合う。
ドキリとして、鼓動が早くなった。
受付嬢はふわっと欠伸をかみ殺していた。
「悪いな。昨日、徹夜で本を読んでいたんだ」
「そ、そうなんですか……」
「えっと、エイス・フィガロでいいのか?」
受付の人は、エントリシートなるものを見ながら喋る。
横に置いた冷めた珈琲を、ずずっ音を立てて啜った。
「わたしの名前は、リナリル・ミヤッドだ。よろしく……」
「よろしくお願いします!」
「早速だが、英雄村ってどこにあるんだ?」
「えっと……。ここから西の端にあって」
「ふーん。聞いた事がないなあ。で――何か経験は?」
「村の案内なら自信はあります!」
「えっと……村の案内って……。村は観光地か何かなのか?」
「いえ。普通の村だと思いますけど」
「じゃあ、えっと……他に特技は……」
「すいません。他にお見せするようなものは……」
「薬草を採ったり、魔獣と戦ったりとかも?」
「はい。……ぼく、不器用なんで」
「そ、そうか……。(チッ。外れ引いたかも)」
「何か言いましたか?」
「気にするな。何もいっていない」
リナリルさんはエントリーシートに視線を落とす。
おかしいなあ。今、確かに「チッ。外れ引いたかも」って聞こえたような。
はっ……。
そうか。きっと今のは、ぼくでは意味が解けない古代の言語なのかもしれない。
それが理解できるか、この人は試したんだな。
受付嬢という割りにぞんざいで、ぶっきらぼうな態度も、ぼくの反応を見る試験なのかもしれない。
「じゃあ、今度はこのステータスカードにサインしてくれ」
カードと羽根ペンを渡す。
これはステータスカードといって、ギルドの会員証であり、自分の状態が一目でわかるものなのだそうだ。
大人しく指示に従い、ぼくは自分の名前を書いた。
すると、突如カードが発光する。
煌びやかな光に、ギルド内は包まれた。
「な、なんだ……!」
リナリルさんは息を呑む。
ギィィィイイインン!!
金属を打ち鳴らしたような音が響く。
今のはなんだろう。
ぼくの常時魔法に、何か魔法の干渉があったみたいだけど……。
やがて発光は止まった。
リナリルさんは、カウンター台に静かにたたずむカードを裏返した。
そこには、ぼくのステータスが書かれている。
一瞬、彼女は驚いたような顔を浮かべた。
その後、そっとぼくにカードを差し出す。
「確認を」
ぼくは恐る恐るカードの裏を見た。
名前 : エイス・フィガロ
力 : 0
体力 : 0
素早さ : 0
魔力 : 0
運 : 0
etcetc。
色んな数値が「0」で埋まっていた。
がっくりと肩を落としかけた時、リナリルさんは説明する。
「やはり何か反応がおかしいと思ったが、数字が正常じゃないな。おそらくカードにかかった魔法が正常に動作しなかったのだろう。私には跳ね返されたように見えたがな……」
「はい。ぼくにもそう見えましたけど……」
すると、リナリルさんはぎろりとぼくを睨んだ。
「そう簡単なことではないのだ、エイスくん」
ステータスカードは古代の遺物をコピーし、初めて製品化されたものだ。
つまり、このカードには古代言語を羅列した魔法が書かれている。
ぼくがサインした事によって、魔法は発動し、数値化されるはずだった結果が、跳ね返され、「0」が出たそうだ。
「“普通”古代言語を使った魔法を跳ね返すことなんて出来ないはずなんだ! 一体、君は何者なんだ?」
「えっと……」
“普通”の村人だと思いますけど……。
リナリルさんは初めてコピー化したっていうけど、村ではよく使われてる魔法言語なんだよね。ぼくたちの方では、一般的な農具にまで使われている。
そもそもカードに書かれてる古代の言語なんて、生まれたての赤ん坊でもわかるのに、なんでそんなに持ち上げるんだろうか。
「“普通”の村人は、“普通”古代の魔法を跳ね返したりしないものなんだがな」
「そ、そうなんですか……」
王都では“普通”じゃないのか。
“普通”ってなんだろうか。
「まあ、いい。カードの誤作動かもしれない。これは私が預かって調べておく。君には仮発行ということで、別のカードを渡しておこう」
「ギルドに登録してもらえるんですか?」
「ああ。仕事はいくらでもある。登録者は大歓迎だ。特に古代言語魔法を跳ね返すようにデタラメな登録者はな」
キランとリナリルさんの瞳が光った。
うう……。もしかして、ぼく何か怪しまれてる?
自分でいうのもなんだけど、善良で普通の村人だと思うんだけど……。
「明日から来てくれ」
「明日ですか? はい! 頑張ります!!」
ともかくお仕事頑張ろう!!
他の更新ともきちん折り合いをつけながら、
毎日投稿していくので、今後ともよろしくお願いします。