表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/54

第10話 ぼくより弱いなんて“普通”じゃない

ブクマ・評価いただいた方ありがとうございます。

励みになっております!

 ひとしきり喜んだ後で、ぼくらの興味は奥に飾られていた盾に移った。


「すげぇなあ。見ただけで、この盾がレアものだってわかるぜ」


「全く解析できないエンチャントがかかってるみたい」


「は、はうぅ……。か、かなりの年代物です。もも、もしかしたら先史時代の【神遺物(アーティファクト)】かもしれません」


 エトヴィン、マリルー、ロザリムが盾を覗き込んでいる。


 あれれ? 

 な、なんでみんな、こんなボロ盾を珍しがってるのだろう。

 確かに先史時代のものだけど、さして凄い盾でもないんだけどな。


「これ、ミスリルかな?」


「きっとそうよ」


「違いますよ。それ、アダマンタイトですよ」


「エイス、わかるの?」


 マリルーは驚く。

 横でエトヴィンさんが首を傾げた。


「――って、アダマンタイトってなんだ?」


「いや、私もあんま知らないけど、とにかく凄いんじゃない? ね。ロザリム?」


「はうぅ……。アダマンタイトはミスリルより硬い魔法金属……。でで、でも、伝説にしか出てこないはず」


「え? うちの村の近くにゴロゴロ転がってましたよ」


「嘘でしょ! 伝説の鉱石が村の近くにゴロゴロって!」


 マリルーは信じられない、という顔をしていた。


 え? おかしいなあ。

 アダマンタイトって結構、あちこちに埋まってるんだけど。

 この王都の地下深くにもあるし。


 すると、今度はエトヴィンが盾に手を伸ばした。


「ちょっと装備してみるか」


「待ってください、エトヴィン!」


 ぼくは反射的に叫んだ。

 大きな声に、獣人のエトヴィンは肩を竦める。

 ビックリしたぁ、という顔をぼくの方に向けた。


「あの……。トラップがあります。それをまず解除しないと」


 ぼくは盾の周りに仕掛けられた罠を見た。

 この通路を見つけた時に書かれていた古代ヤーラム文字だ。

 入口にあったものよりも、ちょっと複雑だけど、これぐらいならぼくでも解ける。


 カチャリ……。


 トラップが外れる音がした。

 これで大丈夫なはずだ。


「本当にトラップがあるとは……。エイス、助かったよ」


「いえ……。これも試験のうちなんですよね」


「試験? ま、まあいい。とりあえず、装備してみるか」


「待って。エトヴィン!」


「エイスの次は、マリルーかよ。一体なんだ?」


「この盾は、エイスのものよ。この通路を発見したのも、今のトラップだって。解除したのは、エイスなんだから」


「む……。確かにそうだな。すまない、エイス。この盾は君のものだ」


「いえ。ぼくはいいですよ」


「そんな謙遜しなくても……」


 謙遜なんてしてないんだけどなあ。

 アダマンタイトなんて、ドラゴンの尻尾の一撃であっさり壊れちゃうし。

 エンチャントも、ぼくがかけた方がずっと強くなるだろう。


「エイスって意外と強情なのね。わかったわ。エイスの厚意を有り難く受け取りなさい、エトヴィン」


「なんでお前が偉そういうんだ。まあ、有り難く受け取っておくよ。ありがとう、エイス」


 こんなボロ盾を『有り難く』もらうなんて。

 エトヴィンこそ、謙虚だなあ。


 ぼくに断って、エトヴィンは盾に手を伸ばした。

 持ち手を握る。

 けれど――。


「ぬおおおおおお!! 全然持ちあがらねぇ! すごい重いぞ、これ!」


 小熊族のエトヴィンの顔は真っ赤になっていた。

 ふぐぐぐぐ、とうなり声を上げて、持ち上げようとしているけど、盾は全くといって動いていなかった。


 とうとうエトヴィンは根を上げる。

 汗をダラダラ垂らしながら、その場に座り込んだ。


「ダメだ。ビクともしない」


「獣人のあんたで無理なら、私たちも無理よ」


 そんなに重たいのかな?


 ぼくが代わりにもってみる。

 すると、軽々と持ち上げ、ぶんぶんと振り回した。


「え、エイス! 重たくないの?」


「え、ええ……。全然……」


「はうぅ……。え、エイス、すごいですぅ」


 マリルー、ロザリムが絶賛する。

 横でエトヴィンががっくりと肩を落とした。


 別に凄い事じゃないんだけどな。

 あ。でも、この盾もしかしたら……。


 ぼくは一旦盾を置き、もう1度良く調べる。

 やっぱりだ。なんか変なエンチャントがかかってるな。

 どうやら、特定の人物にしか装備できない呪いのようなものがかかってるみたいだ。


「もしかしたら呪いの盾かもしれません」


「の、呪いの盾!」


「はうぅ……。強い聖属性をか、感じるのですが」


「今、呪いを解きますね」


「エイス! そんなことも出来るの!」


「はい。終わりました」


「はや! 呪い解くのはや!」


 マリルーは何故か手をついて愕然としていた。

 ツッコミが追いつかないよぅ、とウルウルと涙を流す。


 ぼくは大したことはやっていないんだけどなあ。

 そうか。多分、新人であるぼくに気を遣って、わざとオーバーアクションで場を盛り上げてくれているんだ。


 『鯨の髭』の皆さんは優しいなあ。

 最高のパーティーだ。


 早速、エトヴィンはもう1度盾の持ち手を握る。

 今度は持ち上げることが出来た。


「おお! おお! 持てるようになった! すごい! すごいぞ、エイス! じゃ、じゃあ……。本当にもらっていいのか?」


「どうぞどうぞ。今日付き合っていただいたお礼だと思ってください」


「やっほぉぉおお!! ありがとな、エイス!」


 エトヴィンはその場でぴょんとジャンプした。

 よっぽど嬉しかったらしい。

 いつも冷静なエトヴィンが、子供みたいにはしゃいでいるのを見て、自分の胸がほっこりするのを感じた。


 呪いの盾をあんなに喜んでくれるなんて。

 みんな、本当にオーバーなんだから。


 ところで、台座の下に『英雄の盾、ここに眠る』って書いてあるんだけど、その盾はどこにいったんだろうか?

 まさかこの呪われた盾が、英雄の盾じゃないよね。

 ぼくでも作れるぐらい低レベルの盾だし。


 そうか。

 たぶん、この部屋にぼくたちよりも先に入った冒険者が置いていったのかもしれない。ひどいことをする冒険者もいたものだ。呪いの盾を置いて行くなんて。


「さあ、取るもの取ったし! とっとと帰りましょうか?」


 マリルーは回れ右をする。

 入口から出ようとしたところで、急に扉が閉まった。

 どこかでスイッチが鳴る音がすると、部屋の中に水がドバドバと入ってくる。


「ちょっと! 水攻めって、ベタ過ぎない!」


「馬鹿なことをいっている場合か!」


「はうぅ……。入口! 入口どこですか?」


 あっという間に膝下まで浸かる。

 まごまごしていると、首の下まで水が来るだろう。

 マリルーたちは手分けをして、スイッチや脱出口を探す。

 懸命に作業しているけど、気が付けば胸の下まで来ていた。


「まずい! このままじゃ……」


「マリルー、俺ずっと隠していたことがあるんだ」


「ちょ! 何よ、エトヴィン! こんな時に変な雰囲気を出さないでよ」


「お、おおおお俺は! 泳げないんだ!」


「なんですって!」


「はうぅううう!」


 マリルーは絶叫し、ロザリムはぐるぐると目を回した。


「と、ともかく! 脱出口を探して! ……エイスもそんなところに突っ立ってないで探すのよ!」


「え? でも、マリルー。魔法で脱出しないんですか?」


「そんな余裕があったら苦労は――」


「じゃあ、ぼくがやりますね」


「え?」


 シュン――。


 景色ががらりと変わる。

 ぼくたちの周りにあるのは、鬱蒼と茂った森。

 目の前には、ダンジョンの入口が顎を上げて待ちかまえていた。


 先史時代の紋様が入った壁も、水もない。

 見上げると、夕焼け空が広がっている。


 マリルーはパチパチ瞬いた。


「夢?」


「いや、装備が水に濡れてる。現実だ……」


「はうぅ……。い、今のは転送魔法ですぅ」


「どうしました、みなさん。なんか凄い驚いてますけど」


 首を傾げる。


 ぼくの顔に何かついているだろうか。

 じっとこっちを見て、ただただ呆然としていた。


「もしかして、エイスってとんでもなく強いんじゃないか?」


 エトヴィンは声を振るわせ、呟く。


「正直、そんな予感はしてたけどね」


 濡れた前髪を掻き上げ、マリルーは目を輝かせた。


「はうぅ……。れ、レベルが全然違いますぅ」


 ロザリムは、目をギュッとつむり困惑している。


 すると、エトヴィンがぼくの方にやってきた。

 目を血走らせ、絶対離さないぞとばかりに、手を握る。


「エイス! お願いだ。正式オファーする。俺たちの『鯨の髭』に入ってくれないか。君が入れば、俺たちは一流のパーティーになれる」


「ダメよ!」


 エトヴィンの提案に反対したのは、マリルーだった。


「今、エイスがうちに入っても、足を引っ張るのは私たちの方よ」


 へ? ええ?

 マリルー、何をいっているの?


「だから、エイス。お願い――」


 すると、マリルーはぼくに向かって、目一杯頭を下げた。


「あなたの実力に見合う冒険者になるため、私たちを鍛えてほしいの!!」


 え? え? ええええええええ???


 どういうこと?

 反対するんじゃないの?


 鍛えるって、ぼくが?

 マリルーやエトヴィンを?


 一体、どうなってるのぉ!?


「えっと……。すいません。意味がわかりません」


「簡単よ。あなたはとても強い」


「ぼくは強くなんか……」


「そう。じゃあ、こう言い換えてあげるわ」


 マリルーはぼくの肩に手を置いた。

 ぐっと目に力を入れ、ぼくを睨む。

 女の人にここまで接近されるのも、近距離で睨まれるのも初めてだ。

 なんかちょっとドキドキしてきた。


「エイス、私たちはあなたよりずっと弱いの! だから、私たちを守って!!」


 ガーン!


 そんな!


 マリルーが、ぼくより弱い?

 そんな人がこの世にいるの?

 だって、ぼくは赤子に腕相撲して負けるほど弱っちいんだよ。

 ぼくより弱いなんて。

 そんなの“普通”じゃない……。


 …………。


 大変だ!


 それは確かに大変だ。


 ぼくより弱いなら、魔獣が来たら『鯨の髭』の皆さんはどうやって生き延びるんだろう。


 守ろう。

 守ってあげなきゃ。


「理解してくれた、エイス? いや、エイス師匠!」


「わ、わかりました。ぼくが皆さんを鍛えます!」


「よし! 交渉成立ね! よろしく、エイス師匠」


「よろしく頼む、師匠」


「はうぅ……。先生、よろしくお願いします!」


 皆さん、手を差し出す。

 ぼくはそれをまとめて握った。


 こうしてぼくは『鯨の髭』の師匠となった。


『英雄の盾』、涙目必至!


とうとう自分より弱い人間がいると気づいたエイスくんは果たして……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! よろしければ、こちらも読んで下さい。
『隣に住む教え子(美少女)にオレの胃袋が掴まれている件』


小説家になろう 勝手にランキング

cont_access.php?citi_cont_id=268202303&s

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ