101.続・森の民とおっさん―6
――その夜。
森の民たちが寝静まり、辺りが虫の合唱で埋め尽くされた頃。
木と草で出来た家の中から、二つの影がひっそりと出て来る。
「こんなことして……バレたらどうする? 親父」
「シッ。無駄口を叩くな。あいつらの耳は大きい……すごい耳が良いかもしれない」
それはもちろん、森の深部へこっそりと向かおうとする、グルゥとキットである。
イシュアの忠告を裏切るのは申し訳ないが、今の二人には時間が無い。
ここまで来て、エルフの里でただ漠然と日々を過ごすつもりはなく、強行突破に出た次第である。
「でも、森の深部への入り口には見張りがいるみたいだぜ」
キットが指し示した通り、木々の隙間の細道の前には、松明を持った若者が二人立っていた。
「なに、ここは森なんだ……いくらでも、迂回路ならあるだろう」
そう言って、グルゥは民家から一番近くの木々の陰に隠れていった。
キットはともかく、グルゥはエルフの比ではない巨体である。
里の中を進むこと自体も難しいので、当然の判断ではあるが。
「だけど、ここの森には不思議な魔法がかけられてるんだろ? 迷ったりしないかな」
「それはきっと……来た時と同じで、これを使えば大丈夫だろう」
そう言って、グルゥが懐から取り出したのはコンパスだ。
だがよく見ると、その針は木の枝で出来ていて、白く尖った先が里の中心を指している。
“神木のコンパス”。
イシュアにも隠していた、とある人物から預かった、秘密兵器である。




