100.森の民とおっさん―7
「くッ、卑怯な……!!」
振り上げた拳の行き場を失い、グルゥは悔しげに顔を歪ませた。
その隙をついて、イシュアは下からすくい上げるような拳で、グルゥの顔を殴りつける。
横倒しになるグルゥ。
すかさず立ち上がったイシュアは、倒れたグルゥを見下ろすと――何もせず、キットを人質にとったエルフの若者の下へ向かっていった。
いかり肩のイシュアの後ろ姿。
何かを察したように、エルフの若者はぐっと唇を噛み締める。
「漢同士の戦いに……無粋な行為で、水を差すんじゃねぇッ!!」
イシュアは大きく振り上げた拳で、若者の頬を殴りつけようとした。
体を強張らせ、若者は来るべき衝撃に備える。
――が、
「と、本来であればぶっ飛ばしてやりたいところだが……俺を思ってのことなら、無碍にするワケにもいかねェな」
イシュアはポンポンと若者を肩を叩くと、ニッと屈託のない笑みを浮かべてみせた。
緊張から解放された若者は、全身から力が抜けたように、へなへなとその場に膝をついてしまう。
「も、申し訳ありませんでした、王っ。ですが、私は王のことが心配で……っ!」
「分ぁってるよ、ンなことは。しかし、こう横槍が入った後じゃ……仕切り直しって空気でもねぇよなぁ?」
振り返ったイシュアは、そう言いながら不敵な笑みでグルゥを見やった。
一連の流れを唖然として見ていたグルゥだったが、
「…………お、王!?」
若者が放った言葉は、それまでの戦い以上にグルゥに衝撃を与えていたのだった。




