100.森の民とおっさん―6
イシュアの上に馬乗りになるグルゥ。
鍛え上げられた体といえど、グルゥが本気で脚に力を込めて押さえつければ、容易には抜け出せなかった。
「私は争うことを好まない……ッ!! 趣味は読書と土いじりだ。だから、人を傷付けるような技術は、あえて触れてようとしてこなかった……!! だが、今なら分かる。それは大切なものを守るために、必要だったのだとッ!!」
一方的に上から降り注ぐグルゥの拳だが、イシュアは辛うじて自由な両腕を使って、その一つ一つを受け流していた。
「こんなこと、今さら悔やんでも遅いのはとっくに分かっているのだッ! だから、私には、貴様の伊達や酔狂に付き合っている暇は無いッ!!」
グルゥは左手で、ドンとイシュアの胸板を地面に押さえつける。
イシュアは両手でグルゥの腕を動かそうとしたが、びくともしない。
「悪いな。これなら、格闘術の経験がある貴様にも確実に当てることが出来る」
握り締めた右の拳に、ぎりりと力を込めるグルゥ。
イシュアの表情にも焦りの色が見えるが、強く胸を圧迫され、声すら出せないのが現状だった。
「しばらく眠っていてもらうぞ――」
そしてグルゥがトドメの一撃を放とうとした、その時だった。
「待て、魔人めッ!! この娘がどうなってもいいのかッ!!」
その言葉に、グルゥはハッとして顔をあげる。
声をあげたエルフの若者の腕の中では、森の中ではぐれていたキットが、縄で縛られ、ぐったりとうな垂れていた。




