100.森の民とおっさん―4
「ぐあッ……!?」
脳が揺れ、視界が歪む。
気が付けばグルゥは仰向けに倒れ、勝ち誇ったような笑みで、壮年のエルフは大きく右腕を上げていた。
「どうだお前ぇら!! こんな屈強な『サタン』の男でもな、鍛え上げた筋肉なら倒すことが出来るんだ!!」
勝ち鬨をあげる壮年のエルフに対し、周囲のエルフたちが一斉に騒ぎ始める。
……が、それはよく聞くと勝利の喜びではなく、
「これからは筋肉の時代だ!! お前ぇらも、毎日欠かすことなくトレーニングを――」
「イシュア様!! 後ろ後ろっ!!」
「一回倒して、喜んでいる場合じゃありませんっ!!」
すぐに身を起こしたグルゥが、薙ぎ払うように右腕を大きく振り回していた。
リーチの長さと範囲に避けることが叶わず、イシュアと呼ばれた壮年のエルフは、とっさに右腕でグルゥの攻撃をガードした。
(――決まった)
いくら鍛え上げた肉体とは言え、両者の体格差は一回りの差がある。
一発で吹き飛んでいくだろうと、グルゥは確信していたが、
「…………おいおい。不意打ちとは、男の風上にも置けねぇヤツだな」
イシュアはグルゥの丸太のような腕を受け止めると、身じろぎ一つすることなく、その場に仁王立ちしていた。
「なっ……!?」
その余りのタフネスにグルゥは喫驚する。
そして、
「今のは不意打ちになるのか!?」
勝手に後ろを向いたのはそっちだろうと、全力で反論したい衝動に駆られていた。




