99.天災とおっさん―8
パチン、とユグドラシズが指を鳴らした瞬間に世界は崩れ去り、元の書物庫にミルププは戻っていた。
ユグドラシズに見せられた、一連の世界。
それは間違いなく、ユグドラシズの生い立ちに関わる、実在した過去なのだろう。
「どういう……こと? 私に、こんな手の内を見せるようなことをして」
架空の世界を体験する。
そんな魔法にかけられていたミルププは、体力の消耗が激しく、その場にへたり込んでしまう。
(基礎は、同じ……か。私が、あいつに、“死”を疑似体験させたみたいに)
だからこそ、ユグドラシズはその解法も知っていたのだろう。
ユズの姿のユグドラシズは、ミルププの頭を撫でるようにそっと手を置いた。
「下らない争いに巻き込まれていたキミなら分かるはずだ。この世界に生きる者は、どんなに愚かで、矮小で、馬鹿な存在であるか。ボクはキミを救いたい……本当は誰よりも高潔で、賢く、優れた力を持っているキミを。だからボクは、キミを“世界改変軍”に誘いに来たんだ」
ユグドラシズの言葉は、ミルププにとって正しく、甘美で、自分を良く理解してくれているように思えた。
だが――ミルププは、それよりももっと、信じるべき人の言葉を知っている。
「あいにくだけど……アンタなんかより、私なんかよりも、もっともっとこの世界を良くしてくれる人を私は知ってる」
「へぇ……ボクよりも優れた者が、この世界に存在しているとでも?」
「おじ様だよ……おじ様なら、アンタの野望なんて一瞬でけちょんけちょんにしてくれるんだからっ」
啖呵を切ったミルププを見て、ユグドラシズは一切表情を変えないまま――その指先を、鉄の刃に変えた。




