99.天災とおっさん―5
「あの魔法陣の改変は、ライファ兄の仕業だったんだね」
「ああ、そうだ。あんな芸術的な論理の構築、他に誰が出来る? 邪魔だったんだよ……天才であるはずの俺を差し置いて、どんどん頭角を現すお前が……ッ!!」
「うん……ボクも、あんなことはライファ兄しか出来ないだろうなと思ってたよ」
ボトリ、と生肉が床に叩きつけられる音がした。
何があった? と思って下を向き、ライファはそこで始めて気がつく。
「え……は……? 俺、の……俺の腕が…………ッ!?」
「だから、ずっとライファ兄が来るのを待ってたんだ。痺れを切らして、全てを告白してくれる瞬間をね。だから、目的は達成できたから、もうライファ兄は用済みなんだ」
ライファの右腕は、鋭利な刃物で真っ二つに斬られたように、地面に落下していた。
噴き出す血を押さえ込むため屈み込んだライファは、いつの間にか鎖が外れユグが自由になっていることに気付いた。
「おま、え、お前っ、なんで……ッ!?」
「痛覚はとっくに切ってたんだ。魔法陣を描く為の血を補給するのに、余計な感覚は邪魔だからね。それで、ずっと待ち構えていた。ここまで、ライファ兄が来てくれるのを」
そう言われて、ライファはハッと気が付いた。
ユグの足元。
そこに乾いた血で描かれた、幾何学的な模様の魔法陣があったことに。
「あー……でも、ちょっと失敗しちゃったかな。これから“体”を頂くのに、そんなに損傷してたら不便だったかも」
「何をする気だ、お前っ、やめろ、やめてくれ――」
尻餅をついたまま後退りするライファ。
ユグはその様子を眺めながら、楽しげな笑みを浮かべていた。




