99.天災とおっさん―2
何かに気が付きかけたユグ。
が、転がってきた何かに足元を掬われ、その場に尻餅をつく。
「あああああああああっ、ああああああああああああああああああッ!!」
それは王だった。
魔神と思われる者の宣告を聞き発狂した王が、両耳を押さえながら、足元まで転がってきたのだ。
常軌を逸しすぎたあまり、むしろ滑稽にすら見える状況。
それを目の当たりにして、逆にユグの思考は冷静さを取り戻していた。
「なんで、魔神が? スフィア外の世界は、確かに魔神の根城なのかもしれない。だけど、スフィア間の航行は既に確立されているんだ。こんなに魔神を刺激するなんて、何故――」
血に濡れた眼鏡により、半分赤色になった世界。
ユグはハッとしてそれを乱暴に手で拭うと、ライファの手を振り払い、魔法陣の一角へと駆けていった。
「そっちは危険だ、ユグッ!!」
「やっぱり……やっぱりだ……ッ!! ここの論理術式が間違ってる。いや、むしろこれは、より高度に書き換えられている……!? ボクも知らない、きっとこの部分が、魔神の逆鱗に触れている――」
「危ない、後ろッ!!」
そのライファの声が最後だった。
後頭部を強く殴られたユグは、その場にうつ伏せに倒れ、昏倒する。
「う……やら、れた…………? でも、まだ、まだダメ、だ……」
薄れゆく意識の中、ユグは血溜まりに指をつけると、改竄された魔法陣を書き換えていく。
すると、空間に刻まれた亀裂が、瞬く間に閉じていく。
真っ暗な世界に堕ちていく中、この部分を書いたのは誰だったのだろうかと、ユグはぼんやりと考えていた。




