99.天災とおっさん―1
魔導実験室は、一瞬で阿鼻叫喚の渦に包まれていた。
「なん、だ……? なんだ、これ…………?」
目の前で起きている惨劇に、ユグの思考が追いついていかない。
スフィアの亀裂は複数発生し、徐々にその規模も大きくなっている。
だが、その度に次元の向こうからは“何か”の攻撃が繰り返され、魔導実験室を血の海に染めていった。
「どういうことだ、ユグ!? すぐに実験を中止しろっ!!」
王の激昂が飛ぶが、始めて遭遇した想定外の実験結果だ。
対処法など、持ち合わせているわけがない。
ユグはただ呆然とし、目の前の惨状を見ていることしか出来ない。
「こっちだ、ユグ!!」
ライファに手を引かれ、ユグの思考はようやく現実に戻ってきた。
「こっちって……何処へ!?」
「馬鹿、逃げるんだよっ!! このままじゃ、あいつらに皆殺しにされちまうぞっ!!」
魔導実験室の出入り口へと駆け出すライファ。
が、その足を止めるように、出入り口の前に複数の屍肉が乱雑に投げ込まれる。
『我の怒りを呼び醒まし者……何人たりとも、生かしては帰さぬ……』
次元の向こうから、部屋中を揺るがすような低い声が響く。
それを聞いた瞬間、何人もの魔導士が即座に発狂し、中には手持ちのナイフで自らの首を掻き切る者もいた。
「まさか、この正体は……魔神……っ!?」




