98.天才とおっさん―6
「今回、お前書き上げた論文。スフィア間に眠る、膨大なフォルの奔流にアクセスする方法だと聞いている」
ライファと共に廊下を歩きながら、ユグは質問に対して自慢げに答える。
「うん。今、コクア、そしてイルスフィア中の問題として挙げられている、資源不足。アガスフィアと比べて自然界に眠るフォルの絶対量が少ないイルスフィアでは、このままでは魔人は生きていけないからね」
「そこで、イルスフィア外からフォルを得る仕組みを作り出すことは、今やコクアの魔導士全員の喫緊の課題とされていたが。風穴を開けたのは、やはりお前だったようだな」
「そんな、買い被りすぎだって、ライファ兄。ボクが組み上げた魔導は、まだ理論の段階だから。これから、それを実践してみないと、それが正しいかもまだ分からないんだから」
だが、コクアに住む魔人は全員が知っていた。
今までユグが創った魔法に失敗などなく、全てが一発の実験で成功していることを。
「俺も、少し論文に目を通して貰ったんだが……あの記述は本当なのか?」
ライファの質問を聞いて、ユグは自信を持った表情で大きく頷いた。
「テトラスフィアのことでしょ? 今まで、イルスフィアとアガスフィアは表裏一体、平面状の関係だと思われてたからね。だけど、それだけだと転移時の位置関係の相違や、埋蔵するフォルの総量の差に説明が付かないと思ってたんだ」
「だから……二つの世界以外にも、他の世界がある。世界は、六角形のような形をしていると?」




