98.天才とおっさん―5
「やったな、ユグ」
城内の廊下で声を掛けられ、振り返った少年はパッと顔を輝かせた。
そこには、『ベルゼブブ』の血統の青年が一人。
「ライファ兄! ボク、ついに解読に成功したんだよ!」
ユグはちょうど王への報告を終えたところで、その満足感に、自然と顔が綻んでいた。
ライファはユグの五つ上、ユグに魔導の基礎を教えた、云わばユグにとっての兄貴分のような存在だった。
「まったく、参ったな……。ついに、俺もお前に追い抜かされちまったか」
子犬のような笑顔ではしゃぐユグを見て、ライファも自然と嬉しそうな表情になり、ユグの頭に手を当てた。
「そんなことないよ! ライファ兄は、王様の側近としていつも働いてるんだから。ボクはまだまだ子供で、何の仕事もないから、研究の時間がたっぷりあるんだ」
ライファの魔導の腕は折り紙付きで、コクアでも有数の魔導士として、王に仕える身分であった。
が、そんな彼らですら一目置く存在だったのが、ユグである。
魔導院の年少組に入った時から、ユグの魔導の才能はいっぺんに広まることになる。
難解な魔導書もほぼ一読しただけで自分のものとし、潜在的な魔力も並みの大人の比ではなかった。
あっという間に魔導院を飛び級したユグは、ライファの特別な指導の下、さらにその力を伸ばしたのだ。




