98.天才とおっさん―2
「え――」
「やあ、こんばんは」
そこには、不敵な笑みを浮かべて椅子に掛ける少女の姿が一つ。
ゾッと、背筋に冷たいものを感じたミルププは後退りし、机の上の本がばらばらと床の上に落ちた。
(書物庫には誰もいなかったはず。どうして)
少女の頭には角が生えていて、『サタン』の血統であることが窺えた。
嫌な予感がしてミルププは冷や汗を流す。
(それにこの感じ……私、この子にどこかで――)
「ああ、そうか。この姿じゃあキミには分からないよね。それじゃあ、これならどうかな?」
したり顔で指をパチンと鳴らす少女。
するとその瞬間、少女の姿が靄がかかったようにぼやけ、まったく別の人間に姿を変えた。
「おまえ、はっ……!!」
その姿を、ミルププは忘れるはずがなかった。
それはかつて、ケントラムで合間見えた異世界勇者の少女――ユズだった。
だが、その少女の正体についてはミルププも既に聞いている。
「ユグドラシズ……どうして……っ!?」
「どうしてもこうしても……挨拶に来たのさ。キミには、キミにだけは、ボクが何をしようとしているのか、知って欲しいからね」
ユグドラシズの言葉に、ミルププは言い知れぬ恐怖を感じ体を強張らせた。
何故、ユグドラシズがコクア城の深部まで潜入出来ているのか。
何故、自分に執着をしているのか。
その理由が分からず、何と言い返せばいいのかも分からず思考がフリーズする。




