97.異世界勇者・伍とおっさん―7
「何……したの……? アキト…………?」
「どうもこうもしてねーよ。俺が殴られてる間に、あっちの男がナイフを取り出してきたから……俺も、流石にヤバイと思って、落ちてたコレを拾って、それで――」
アキトも徐々に事の重大さに気付いてきたのが、話す言葉が徐々に震えだし、早口になる。
「なぁ、これって正当防衛だよな? 俺は何も悪くないよな? こんな、害虫みたいなヤツら殺したくらい、なんにも――」
「アキトッ!! 私、私は…………っ!!」
次に、何と言葉を発せばいいのか。
考えあぐねた末に、カエデは喉の奥から搾り出すようにして、一言を発した。
「私は、悪くない…………と思うよ。大丈夫、アキトが悪くないってことは私が証言する。だから、だからっ…………!」
カエデの言葉を聞いた瞬間、憑き物が落ちたように、アキトの表情がふっと明るくなった。
「そ、そうだよなっ! こんなヤツら死んだところで、ゴミ虫を殺したところで……俺が悪いわけねーよっ。だって俺は、正義の行いをしたんだ。悪いヤツらを懲らしめたんだっ」
ははは、と乾いた笑い声をあげるアキト。
その姿を見て、カエデは自分の判断が本当に正しかったのか、不安になった。
だが、こんなヤツら殺してやると、明確な殺意を持っていたのはカエデも同じだ。
だったら、アキトの犯した罪は、自分が犯したと同じ――誰がやったのかは偶然で、然るべくして起こったことなのだと、カエデは自分に言い聞かせた。
そして、その時だった。
廃墟の暗がり、闇の奥から、じっとこちらを見つめる巨大な獣の眼光と目が合ったのは。
「え――」
次の瞬間、カエデの意識だけでなく、その体さえも、別の次元へと飛ばされていた。




