97.異世界勇者・伍とおっさん―6
(ど、どうしよう。アキトを助けなきゃ)
焦るカエデは――唐突に、両手が自由になったのを感じた。
見れば、いつの間にか両腕に巻かれた粘着テープが切れている。
噛み千切った痕跡を見て、カエデは心底驚いた。
「ナナっ!? こんなとこまで……っ!」
カエデの声に反応し、ナナはバウっ、と低く吠えて応えた。
カエデの匂いを追跡し、アキトをここまで連れて来たのはナナだったのだ。
その働きにカエデは少し誇らしくなったが、今はアキトを助ける方が先決だった。
「ちょっと待っててね、ナナ。今、アキトを助けるから――」
そう言って顔を上げた時には――事態は、既に最悪の方向へ動いていたことを、ようやくカエデは理解した。
ぐったりと倒れ込むアキト。
血に塗れ、一瞬、手遅れかとカエデは思ったが、その胸は上下していて生きていることが分かる。
良かった。
そう思ったのは束の間で、次にカエデの脳内には、無数の疑問が湧き上がってきた。
どうして全身、血に塗れているのか?
小太りの男は? もう一人の男は?
その手に握り締めている真っ赤なガラス片は――何なのか?
「……っはぁ、はぁ…………正当防衛だろ、これって……」
ゆっくりと上半身を起こしたアキト。
その奥で、先程まで自分を襲おうとしていた二人の男が倒れているのを、カエデははっきりと見てしまった。




