97.異世界勇者・伍とおっさん―3
――あの夏の夜のことを、カエデは鮮明に覚えている。
肝試しの最中、一人で待機していたカエデを浚っていったのは二人の男だった。
「んーっ、んんーっ!!」
口と両手に粘着テープを巻かれ、身動きの取れない状態になったカエデは、山中の廃墟に連れ込まれていた。
カエデを浚った二人の男のうち、痩せぎすの男が携帯電話で何かを話している。
もう一人、小太りの男はじっとカエデを上から眺めていた。
「なぁ、ほんとにこんなチビガキで合ってるのか?」
「るっせーな、だから今確認しようとしてんだろッ!? 話が正しければ、あそこで一人で待ってるのが目的のヤツなんだよ」
カエデはもごもごと口を動かして話そうとするが、粘着テープのせいでくぐもった声しかでない。
(違う。それは私じゃない)
本来であれば、あそこで待機しているのはマリモだったはずなのだ。
男達の期待外れのような顔色を見ても、元々のターゲットはマリモだったのだろう。
(どうして? 私が、マリモに順番を譲ったから?)
もしもマリモが、初めからそれを予期していたとしたら――
カエデの脳裏に、最悪の可能性がよぎる。
そしてそれを裏付けたのは、次の痩せぎすの男の言葉だった。
「まあ、いいか。どのみち誰が来てもやることは同じだ。いいか? お前は今から薬漬けにされて、男ナシじゃいけてけない体になるんだよ。可哀想だな、信じてた仲間に裏切られるってのは」
(裏切られた? 裏切られたの? 私は)
カエデの胸の中では、男の暴力的な言葉よりも、その事実の方が絶望として重く圧し掛かっていた。




