96.続・狼煙とおっさん―7
「“形質反転”した魔人は、普通の魔人よりも強い能力を持つことがある……だけど、その強力な力は自分の命を削っちまうらしいんだ」
「それなら、力を使わなければいいだろう。仲間も増えたんだ、これからの戦いはみんなに任せればいい」
「ううん……確かに、力を使わなければ急激な命の消耗は避けられる。だけど、発現した力はずっと暴走してる状態で、少しずつ、オレの命は削られてるんだ。だから、オレはもう――」
「キットっ!!」
最後まで聞くのを耐え切れず、グルゥはキットの小さな体を抱き締めた。
キットは腕の中で小さく震えている。
しんなりと垂れた尻尾と耳が、キットの心情を表していた。
「大丈夫だ。お前はもう、何も心配するな。お前を死なせることなんて、決してさせやしない。何か方法があるはずだ」
「……こんなこと言って、本当にゴメンな、親父。だけど、オレ自身が一番、よく分かってるんだ。きっともう、オレの命は、この先に長くないんだって……っ!!」
ひっくと、泣きじゃくるキットの嗚咽が漏れていた。
その心情を察し、グルゥも思わず貰い泣きしそうになるが、グッと堪えてキットを固く抱き寄せる。
「お前が、覚悟を決めていたとしても……私は、絶対に諦めないぞ」
「……へへっ。親父の体、前よりもっと温かい。……今日は、このまま……ずっと、こうしてたいな」
キットは頬を擦り付けるようにして、グルゥの胸に顔を埋めた。
グルゥは何も言わず、静かにその頭を撫でてやる。
キットの震えが止まり、眠りにつくまで、グルゥはずっと華奢な体を抱き締めていた。




