96.続・狼煙とおっさん―6
そんなミノンは今、サリエラの下に付き、ジルヴァニア復興の指揮の手伝いをしている。
ヴラディオが病床にあり、ブランが母と共に帰省した以上、今のサリエラはれっきとした王女なのである。
無論、ヴラディオの臣下である大臣らもいるが、その心中はヴラディオに心酔している者、はたまた圧制を疎ましく思っていた者など、結束とは程遠い状態だ。
ネアロの助言により執るべき行動は定まっていたが、サリエラはジルヴァニアの新たな象徴として、王女として振る舞う必要があった。
そんなサリエラの姿を見て、ミノンは少しでも力に慣れればと、自ら補佐役を買って出たのだ。
(ミノンは、きっともう一人でも大丈夫だ。彼は賢い、何でも吸収するし、私なんてあっという間に追い抜かされてしまうだろう)
政治に関わることはミノンにとっても良いことだろうと思い、グルゥはそれを止めなかった。
その結果、こうして二人で過ごす日々が戻ってきたというわけである。
「前に、ミノンから聞いたことがあるんだ」
「……何をだ?」
「ケントラムの教会で、孤児院をやってるシスターが居たろ? あそこに集められてたのは、“形質反転”した魔人の子供達なんだ。だから、そのことには詳しいらしくて」
「やめろ」
訥々と話し始めたキットに、グルゥは言い知らぬ不安を覚え、小声で呟いた。
だが、キットの独白は止まらない。
耳を押さえたい衝動に駆られるが、グルゥはグッと唇を噛み締め、キットの語ろうとしていることを受け入れようとする。




