96.続・狼煙とおっさん―4
それを制する様に、ネアロは矢継ぎ早に話を続けた。
「残念なことに、ヤツは“大賢者”だ。……力の行き場なら、魔法という形でどうにでもなる。その組み合わせが――過去に類を見ない、最悪の状態なのだよ」
「力の行き場、か。確かに、私も“魔神の心臓”の力に呑まれ、自我を失い暴れることはあった」
「ユグドラシズは、そんなヘマはしないだろうね。ヤツにとっての“魔神の心臓”は、強靭な魔力を更にブーストさせるためのエネルギー源でしかないのだ」
ヘマという言葉に、さり気なくちょっと傷つくグルゥ。
「だからこそ、もしかしたらヤツは本当に――“神殺し”まで実現してしまうかもしれん。そうなれば、この世界はヤツの手に落ちたも同然……終わりの始まりだよ」
ネアロの重く暗い言い方に、テーブルを囲む一同の空気が重くなった。
いったい、“神殺し”まで目論む相手に、どうやって戦えばいいのか。
まったく想像がつかない事態に、グルゥは頭を掻き毟りたい衝動に駆られるが、
「と、脅し文句はここまでにしてだね。こちらにも、対抗策はあるんだ」
先程までとは一転し、軽妙な口調に切り替わるネアロ。
「対抗策?」
「ああ。だけどこれは、私の優秀な助手とまだ練っている最中の作戦でね。あまり周囲に情報が漏れても困るし、確定してから伝えるよ。やられっぱなしは、私の性分に合わないからね。反撃の狼煙を上げようじゃないか」
そう言って、口髭をピンと整えたネアロはニッとほくそ笑んだ。
自分と比べれば半分程度の大きさの小柄なネアロだが、何故かその話を聞いていると、何とかなるかもしれないと、グルゥの心にも僅かな希望が生まれるのだった。




