96.続・狼煙とおっさん―3
「だけど、その具合なら私が説明しなくても分かってるんじゃないか?」
「何がだ?」
「ユグドラシズが、魔神をも殺せる可能性。“魔神の心臓”は、魔神の力を分け与えれられたに等しいのだからね。使い方によっては、一矢報いることが出来るかもしれない」
ネアロの言葉に、グルゥは半信半疑だ。
確かに、“魔神の心臓”の力は強力だ。
本来であれば出せないような無限の力が、体の奥から湧き出して来る様な感覚がある。
「しかし、これは……実を言えば、どうして私がこの力を得たのか、それすらも分からないんだ。瀕死の重傷……いや、実際に死んでいたのかもしれない。その時に始めて、この球体が私の体に現れた」
「それは、君が魔神の加護を得てこの世に生まれたという証拠だ。一般的には、“血統の覚醒”として知られているがね。人一倍濃く魔神の血を受け継いだ者が、物理的に魔神の力を得ることがあるというのは、古い文献にも載っていることだよ」
ネアロに言われて、グルゥはそっと服の下から胸の熱球に手を当ててみる。
気が昂ぶっていない――『憤怒』の意志が無い時は、熱球は人肌の温もりと変わらぬ温かさだった。
「その娘である彼女も、同じように魔神の血を濃く受け継いでいたということだ。もっとも、あの幼さでは、強制的に目覚めさせられた“魔神の心臓”を使えば身体の崩壊が先に始まると思うが」
ネアロの言葉を聞いて、グルゥはガタッと椅子から立ち上がる。




