96.続・狼煙とおっさん―2
「だが、魔神に会えたとして、神を殺す力など持っているのか?」
「だからこそ、ユグドラシズは……。……いや、もったいぶっていても仕方ないか。だからこそヤツは、君の娘の体を奪ったのだろう」
ノニムの話になり、グルゥは血液が沸騰するような怒りが全身に湧くのを感じた。
瞬間、グルゥが放つ殺意――いや、明確な破壊の意思に、テーブルを囲む面々は身構える。
が、
「親父。……また、あの顔になってるぞ」
コツン、と隣からキットに肘で小突かれて、グルゥはハッと正気に戻った。
「す、すまない。分かってはいるんだが……どうしても、娘のことになると気が気でなくてな」
「まあ、その気持ちは分かるよ。私も、君に娘を救ってもらえなかったら、ずっと世界を恨んだままだったろうからね。だけど、見てるこっちまで息が出来なくなるような雰囲気は、勘弁してもらいたいな」
ホッと大きく息を吐きながら、ネアロは言った。
グルゥ自身、そのことは既に十分理解していた。
“魔神の心臓”を手に入れてから、感情の制御が難しくなったということ。
(もしも、キットがいなかったら、私は……)
そのキットも、今はいつ倒れるか分からない危険な状態にあるという。
既に何回も、目の前が暗くなるような絶望の影に打ち負かされそうになっていた。
だが、そんな時だからこそ気を強く持たねばならないと――それが年長者としての務めだと、グルゥは自分に言い聞かせる。




