95.狼煙とおっさん―9
平手ではなくグーパンチ。
あまりの全力の殴りに、ヴラディオは頬を押さえてポカンとする。
「きっ……貴様ッ!! 王たる我に何をするかッ!!」
「何が王だっ! 娘一人大事に出来ないおめぇに、国の民が守れるわけねぇべっ!!」
何度も拳を振るい、ヴラディオをタコ殴りにするルッタ。
これには堪らず、耐えるだけだったヴラディオもついに手を挙げる。
「いい加減にしないかッ!!」
「いい加減にするのはそっちだぁっ!!」
が、動かそうとした右手がピクリとも動かないことに気付き、ヴラディオは戦慄した。
既に、ルッタの冷気によって、右腕がベッドに固定されていたのだ。
「ちょ、待て、こら――」
「何でもっ、一人でっ、解決しようとしてっ……! そんなんじゃあ、誰もついて来ないだぁっ!!」
ベッドに磔にされたヴラディオはルッタに散々ぶん殴られ、ふらふらになる。
「ま、待て、その……。我が、我が悪かった」
このままじゃ本気で殺されると思い、ヴラディオの口からは自然と謝罪の言葉が零れていた。
そういえば、と過去のことを振り返る。
かつて、唯一自分が頭を下げた相手が、ルッタだったと。
「もう、こんなことしない……みんなと話し合って国のことを決めるって、約束してくれるかぁ?」
ルッタの提案はもはや脅迫だったが、ヴラディオはそれを受け入れるしかなかった。
「わ、分かった。分かったから、これ以上は止めてくれ」
ひとまず、ルッタが居る間はあまり派手に動くことは出来ないと。
未だ胸の内の野望は果てぬヴラディオだが、ここは一旦、ルッタに従うことにした。




