95.狼煙とおっさん―8
――枕元に近付く気配でヴラディオは目を覚ます。
ほんのりと漂う冷気。
どうやら、一番会いたくない顔がやって来たらしい。
「どうして……こんなことをしただ」
ベッドの上から顔を覗き込むルッタに、ヴラディオは顔を背けると、無視を決め込んだ。
「サリーメイアは……こんなことをさせるために、生まれたんじゃないだ!」
「それは、貴様の価値観だろう。我は元よりそのつもり……貴様と交わったのは、最強の種を作る、その目的のみのためだった」
心無いヴラディオの言葉。
だが、ルッタは傷ついた様子も見せずに、じっとヴラディオの顔を見つめている。
「あの時……山小屋の中での暮らしで見せた優しさは、嘘だったんか」
「ああ、そうだ。全ては我が目的を、悲願を果たすため。お前も、我にとっては駒の一つでしかなかったのだ。理解したか?」
「……ああ、十分理解しただ」
パシン、と病室に響く乾いた音。
ルッタの平手が、ヴラディオの頬を打っていた。
「これで、満足か」
ヴラディオはベッドに寝たまま、じっとルッタの顔を睨みつける。
その目の奥には、失せろ、という強い意思が込められてた。
「うん、満足…………なんて、するわけないじゃろがぁ!!」
が、それを上回るような強い口調で、ルッタは再度思い切りヴラディオの頬をぶん殴った。




