95.狼煙とおっさん―6
目を覚ますと、自分を拘束していた魔人は全員死んでいた。
「あれ……僕、何かやっちゃいました?」
そう言った少年の姿を見て、“シロカミ”は愕然とする。
「って、アキトだったら言うかもね。面白くもない冗談だけどさ」
間違いない。
目の前にいる自分は、自分だ。
「あ、あ、あ…………っ!?」
「やられっぱなしなんて、“平等”じゃないだろ? やられたらやり返さなきゃ、それじゃいつまで経っても“不平等”のままだよ」
黒い髪の自分――“クロカミ”はそう言った。
こんな考えを口にするなんて、やはり紛れもなく彼は自分なのだ。
だが、シロカミには何が起こったのか全く分からない。
一つ、先程までの違いがあるとすれば、自分の左手が白く光り輝いているということ。
「生き返らせるなら、今のうちだよ? 魂が肉体を離れる前なら、僕のチートスキル『命を刈り取る右手』はキャンセルが聞く」
「君が……彼らをやったのか!?」
魔人達は、どれも苦悶の表情を浮かべながら息絶えていた。
“自分”にそんな恐ろしいことが出来るなんて、到底考えられないことだ。
「チートスキル『命を芽吹かせる左手』。それが、そっちのチートスキルらしい」
「どういうことだよ!? 僕にはチートスキルなんて――」
「相反する能力が、僕には同時に宿っていたんだ。そして、死をもって魂が肉体から解放された瞬間に、魂の分裂と共にそれは発現することになった」
クロカミの説明は、シロカミの理解を遥かに超えたものであった。




