95.狼煙とおっさん―5
それはいつも変わらない景色だった。
病院の一室から見える窓の外の景色。
もう何年もの間、この景色を向き合っているだろうか。
視界に映るのは一本の梢だけだ。
春には花が咲き、夏には若葉が萌え、秋には色づいて、そして枯れていく。
冬の訪れの度に、自分の生命もいつか同じように枯れていくのだと思うと、シノカミは自分ではどうしようもない恐怖に襲われることがあった。
夜が怖くて、眠れなかった。
もしも明日、目が覚めなかったらどうしよう。
今日が最後の日だとしたら。もうやり残したことはないだろうか。
終わりのない不安と絶望の日々。
いつしかシノカミは、二つの相反する考えを持つようになる。
生きたい。
どうにかして病気を克服し、みんなと同じように希望に溢れた人生を送りたい。
死にたい。
こんな苦しみが続くならいっそ死んでしまいたい。でも、一人だけ死ぬなんて嫌だ。
「みんな一緒に死んでくれれば……そうすれば“平等”なのに」
どうして、自分だけがこんな目に遭わなければならないのか。
シノカミが抱き続けた暗い思いは、いつしか平等を求める、破滅の願望へと近付いていた。




