95.狼煙とおっさん―3
「二人っていうか……元々は一人なんですけどね」
ギリギリまで顔を近付けてきたキットに、白い髪の少年は顔を赤くして困惑する。
シノカミと同じ姿形だが、少年が纏っている雰囲気は、シノカミの病的なものとは正反対だった。
「それが、“シロカミ”の持っていたチートスキルってことだね。まったく、こんな自衛があったとは、私も驚いたよ」
ネアロが言うと、白い髪の少年はますます困ったような顔をした。
「その、シロカミっていう言い方……止めてくれませんか? なんか、すごくダサく感じます」
「はっはっは。しかし、そう言わなくては“向こうのシノカミ”と区別が付かないではないか。というわけでキミは今日から“シロカミ”。これ、王様としての命令だから」
ネアロの無慈悲な決定に、“シロカミ”はガクリと肩を落とす。
「なに、安心したまえ。その代わり、向こうの呼称も今から“クロカミ”だ。それなら良いだろう?」
「良いわけないですけど……言い出したら聞かないっていうのは、もう十分知ってます」
「うむ。物分りの良い子は嫌いじゃないぞ。何にせよ、私がキミを拾ってから、もう何ヶ月かの付き合いになるからな」
異世界に来たシノカミに何があったのか。
それは、シロカミの口から、語られていた。




