95.狼煙とおっさん―2
ジルヴァニア城での激戦から、三日が経っていた。
半壊したジルヴァニア城では、復興ため多くの兵らが慌しく動いている。
――王であるヴラディオが倒れた後、なおも戦い続けようとする者はいなかった。
ヴラディオの暴走により、イルスウォードの兵らだけでなく、ジルヴァニアの兵士達にも大きな被害が出ていた。
傷ついた者はあまりに多く、兵士達に士気は残っていなかったのだ。
そして何より、二人の王の存在が大きかった。
「すまない、待たせたな」
グルゥとキットがやって来たのは、崩れかけた大広間にテーブルや椅子を持ち込んだ、こちらも仮設の会議場だ。
やあ、と軽い調子で手を挙げたのはコクアの王、ネアロである。
自らもアガスフィアに赴いていたネアロは、一歩引いた位置で戦局を大観し、裏でイルスウォードの指揮をしていたのだ。
そんなネアロが動いたのは――ヴラディオが命を落とす直前である。
「いくら悪逆非道の限りを尽くしてきた彼でも、命を救ってもらった上でまだぎゃーぎゃー喚きたてるような往生際の悪さは無かったということだね」
見せ付けるように口髭を撫でながら、ネアロはテーブルの向こうの少年に語りかける。
白い髪の少年は、呆れたように笑いながら、困惑してグルゥを見上げた。
「あはは……ネアロさん、さっきからずっとこの話ばかりしてるんです。よっぽど、自慢をしたいんですかね」
「ってもよー、実際にヴラディオを助けたのはお前なんだろ? だったら、そのちーとすきるの自慢を出来るのは、お前の方なんじゃないか?」
キットの言葉に、僕はそんな、と少年は謙遜してみせた。
「しかしビックリだぜ。お前が、二人も居たなんてな」
キットはまじまじと少年の顔を見る。
その少年は、髪の色の違いこそあれど、シノカミと全く同じ顔をしていた。




