94.異世界勇者・参とおっさん―8
それは悪夢のような――いや、それを通り越し、狂気の世界と化していた。
一度はユズ達に殺された信者達。
彼らがまるで生きる屍のように蘇り、その体は思い思いに変貌を遂げていく。
蝶の様な羽を生やしたもの。
蝸牛のような甲羅を背負ったもの。
それらの変貌は、全てミクが趣向を凝らして事前に埋め込んでいた、“因子”によるものだった。
「死ねッ!! 死ね死ね死ね死ね死ねッ!! お前らなんて、全員死ねッ!!」
既にこの世界には、もう愛する兄も父も居ない。
その事実は、ミクが被っていた仮面を剥ぎ取り、本質的な凶暴性を露わにするには、十分過ぎるほどの条件だった。
「へぇ、ゾンビ・アタックなんて、そんなことも出来るんだ」
だが異形の屍に囲まれても、ユズは表情一つ変えなかった。
テントを薙ぎ倒し、無数の信者達の群れが押し寄せてくる。
「あははははははははははははッ!! 殺せ、殺しちゃえッ!!」
ミクは勝利を確信し、歯を剥きだしにして哄笑をあげた。
ユズはゆっくりと右手を突き上げると、
「燃えろ」
その人差し指から、周囲を薙ぎ払うように円状に熱線を放射した。
高熱が巻き起こす熱風に、信者達は一瞬で消し炭へと変わっていく。
「はは、は…………え?」
「今のはチートスキルでも何でもないよ。“魔神の心臓”。ボクが辿り着いた研究の成果だ」
ユズが手に入れたノニムの体――その中央に埋め込まれた熱球が、煌々と闇夜に輝いていた。




