94.異世界勇者・参とおっさん―7
「嘘……そん、なぁ…………っ!!」
極限まで見開かれたミクの瞳。
その丸い瞳の中には、灰のように炭化し、滅びていくケンロウの姿が映し出されていた。
「ぁ…………ミ、ク…………ッ」
それがケンロウの最後の言葉となった。
塵と化し、完全に消滅してしまったケンロウ。
だが、シノカミの右手には、唯一彼が存在していた証拠を示すように、薄緑色のクリスタルが握られている。
「へぇ。彼も異世界勇者だったのか」
「これは思わぬ収穫だねぇ。早速、ボクの『九九九つの特殊能力』に加えさせてもらうよ」
ユズはシノカミから受け取ったクリスタルを自身の“魔神の心臓”に接触させると、溶かすようにして体内に取り込んでいった。
「そのチートスキルの名前……まさか……っ!?」
「フフ、やっと気付いたかな? でも残念、彼が使っていたチートスキルは、あくまでボクが“貸与”しただけに過ぎない。『九九九つの特殊能力』の一つ、“能力付与”を使っただけさ」
ミクは混乱していた。
何故、アキトが使っていたような能力を、見ず知らずの少女が我が物顔で使用しているのか。
シノカミがこの場にいる以上、彼女も勇者戦争に関わるものなのだろう。
だとしたら――これ以上、躊躇している理由など無いと。
「許さない……にぃにに続いて、パパまで奪うなんて……っ! これ以上私の大事な人を奪うなら、お前らなんか、お前らなんか……っ!!」
ミクの持っていた注射器が、淡い光を放ち始める。
テントから漏れ出た光は、まるで粉雪のように周辺に降り注ぎ、その瞬間に、倒れていた屍達の目に光が灯った。
「『幸福の薬園』……オーバードーズッ!!」




