94.異世界勇者・参とおっさん―5
「なッ……んだよ、このクソァ……ッ!!」
「久しぶり……って言っても、ミクはもうこの姿じゃ分かんないか。お父さんなら、ボクの力を見れば分かってくれるかもしれないけどね」
切り裂かれたテントの外から入って来たのは、ノニムの姿となったユズだった。
ミクは突然の出来事にパニックになり、悲鳴をあげることすら出来ない。
「な、なんでぇ……どうしてぇ、パパぁ!!」
「フフ、お兄さんに続き大事なお父さんまで死んじゃって、可哀想にね、ミク。だけど大丈夫、もうすぐ君も、同じところに行くんだから」
光の剣を引っ込めたユズは、愉しそうに笑いながら歩を進めていった。
「いやぁ! 誰か、誰か助けてぇッ!!」
迫り来る脅威に我に返ったミクは、頭を抱え、悲痛な叫び声をあげた。
こうすれば、普段身の回りをしてくれている信者が助けに来てくれると、そう考えたからだ。
だが、事態は既に最悪の方向へと進みつつあった。
「え……どうして……? なんで、誰も来てくれないの……?」
顔を上げたミクが、切り裂かれたテントの奥に見た光景。
それは、冷たい地面の上に横たわる信者や患者達の、死屍累々のドミノである。
「もちろん、邪魔者は既に消してあるよ? せっかくの愉しい時間、横槍が入ったら台無しだからね」
表情一つ変えることなくユズは言った。
理解出来ない。
何故、何度も何度も、大事なものを一方的に奪われなくてはならないのか。
そのショックは、常にぼやけていたミクの思考を、一時的に正常なものにした。




