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94.異世界勇者・参とおっさん―3

「おお、すげぇ……! さすが、奇跡の少女だ……!」


 ミクの治癒により、男の怪我はみるみるうちに良くなっていった。

 礼を言って帰ろうとした男だが、ケンロウは待て、と呼び止める。


「次の患者のためなんだ……協力してくれるよな?」


 空になった注射を挿し、元気になった男から、ミクは今度は薄緑色の液体を採取するのだった。

 男はその一連の流れを、呆気に取られたようにポカンと眺めている。


「噂には聞いてたが……ほんとに、不思議なことをするんだな」


「この子がやっているのは、要は元気の素を注入するようなことなんだ。もちろん、人にあげるだけじゃあその内元気の素は無くなるから、こうして治療後にそれを頂く。それを回すことによって、みんなの怪我や病気を治しているのさ」


 ケンロウの説明に納得したようで、男は何度も頷きながら、喜んでテントを後にしていった。

 ミクは澱みなく“嘘”をついたケンロウの顔を、不思議そうにじっと見つめている。


「どうして、そういうことを言うの?」


「これが、世の中をうまく渡るコツってモンなんだよ。なぁに、怪我や病気をほぼ無償で治しているのは事実なんだ。恨まれるようなことは、してないさ」


 かつては自身が異世界勇者だったこともあり、ケンロウはその事実については既に知っていた。

 それは、ミクが“フォル”を摂取しなければじきに衰弱死してしまうという――勇者戦争のルールだ。


(どんな難病や怪我も治せちまうのは事実だ。だけど、それだけじゃいつかこの子は餓死しちまう)


 そこでケンロウが考えたのは、治療に来た患者から、少しずつフォルを採取するというやり方である。


(遠い目で見れば、ちっとばかし寿命が縮んでるかもしれねーが……それでも目先の痛みを取り除く方が、人間にとっては“幸福”だろう)


 そう考えるケンロウの目に、迷いはない。

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