94.異世界勇者・参とおっさん―2
――数日後。
サグレスの中でもまだ復興が進んでいない、荒れたガレキの街並みの地区。
そこには人目を避けるように、灰色のテントがひっそりと立てられていた。
だが、その入り口には既に、奇跡を信じる者達の長蛇の列が並んでいる。
そのテントこそが、ケンロウとミクが共に暮らす本拠地であり――“奇跡の少女”を信仰する者達の聖地なのである。
「では、次の方……どうぞー」
けだるげな眼差しで、ミクは次の信者を呼んだ。
テント内に入って来たその男の右腕には、大きな痣が出来ており、添え木をしていることから骨折をしていることが見て取れた。
「すんません、復興の作業中にやっちまって……怪我も治せますかね?」
「無論、この子に癒せないものはないさ。だが、もちろん対価は――」
「分かってます、これ、少ないですが」
男はポケットからなけなしの硬貨を取り出すと、ケンロウに手渡した。
一日分の食費にもならない微々たるものだが、ケンロウにとって金額の大小は大きな問題ではない。
「いいってことよ。“困った時はお互い様”だからな」
そう言ったケンロウの口元は、僅かながらに不敵に歪んでいた。
「パパ。始めていいの?」
「ああ、大丈夫だ……早く治してやれ、こんなに腫れていては、さぞ辛いことだろう」
ケンロウの合図を聞いて、ミクは右手を前に出す。
「『幸福の薬園』」
何もない空間からミクが取り出したのは、一本の注射器だった。
中には薄緑色の液体が詰まっていて、ミクはそれを、手馴れた手つきで男に注入していく。




