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エピローグ

 乾いた大地を軽快に走る車輪の音が鳴る。

 王都を発つ馬車に揺られながら、ブランは物憂げに車窓の外の景色を眺めていた。


「長い……本当に長い戦いだった」


 その戦いは、いつから始まっていたのだろうか。


 ヴラディオがユグドラシズを手を組んでから?

 サリーメイアが王都に来て、自分の立場が脅かされるようになってから?


 いくら考えたところで、答えが分かるはずもなかった。


 ただ今は――勝利とも言えない、ただ手に入れた束の間の安息を受け入れ、穏やかな時間を過ごしたかった。


「これからはちゃんと、私が守るよ……母さん」


 ブランの正面の席には、同じように外の景色を眺める、一人の老女の姿があった。


 自分に魔法の才能が無かったせいで。

 ヴラディオの暴力から、彼女を守る力を持たなかったせいで。


 精神に異常をきたし、息子の顔すらも思い出せなくなってしまった母。

 かつての美貌など今は見る影もなく、同世代と比べても明らかに老けた姿になっている。


 それでも。


 今からでも遅くない、失った母子の時間を取り戻そう。

 それが今の自分に出来る、無力だった過去に対する唯一の贖罪だと考え。


 ブランは王位継承権を放棄し、後のことはサリーメイアやルッタに任せることに決め、母と共に田舎で暮らす決断をしたのだった。


「あなたは……誰だい?」


 不意に目が合った母から発せられた言葉を聞き、ブランはふっと優しげな笑みを浮かべる。


「私はあなたの……世界一の騎士ナイトですよ、お姫様」


 顔にかかった髪をそっと横に流すと、皺の刻まれた母の頬を、ブランは人差し指でそっと撫でるのだった。

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