93.愛娘とおっさん―10
明らかに何かを隠すような仕草のキットを、グルゥは後ろから羽交い絞めにする。
「キット、お前……! 何か、私に言ってないことがあるだろう!!」
「べ、別に何でもねーよ、このくらい。親父は心配性なんだって」
「お前のことだ……心配しないわけがないだろうっ!!」
前を向かされ、面と向かって怒鳴られたキットは、ばつの悪そうな顔をして俯いた。
叱られているようで、でも満更でもなさそうな、複雑な表情だ。
「あはは……だから、言いたくなかったんだよな」
「だから……? どういう意味だ、キット」
「どうもこうも……こんな状況で、親父に心配なんてかけたくなかったし。親父は、ノニムを助けることだけ考えてればいいよ」
「私にとっては、お前も大事な娘だっ! それが、どうして、こんなことに……っ!!」
血で汚れたキットの口元を、大きな手で拭うグルゥ。
すると、今まで堪えていたものが、一気に噴き出したかのように――キットの目からは、大粒の涙がとめどなく溢れ出した。
「う……うぐっ、ぁふっ、おや、じぃ…………っ!!」
「大丈夫だ……私がついている、何でも言ってみろ」
震えるキットの体を抱き締めたグルゥは、何があってもキットを守ってみせると、心に固く誓った。
だが、直後のキットの言葉は――そんなグルゥの決意を嘲笑うかのように、二人の絆を揺るがすには十分すぎる一言だった。
「オレ……オレ、もうすぐ死ぬんだよぉ……っ! いやだ、オレ、死にたくないんだよぉ……っ!!」
もうすぐ陽が沈む。
崩れかけた玉座の間にて、闇に溶けていくジルヴァニアの街並みを眺めながら。
キットから告げられた事実を噛み締めたグルゥは――放心状態のまま、ただただ、その華奢な体を抱き締めることしか出来なかった。
第16章 王とおっさん
第3部 ジルヴァニア戦乱編 ―完―
長きに渡る戦いに、一つの終止符が打たれた。
だがそれは、次なる新たなる戦い――終焉への扉が開いただけに過ぎない。
明らかになる大賢者ユグドラシズの野望。
少年少女の夏も、ついに終わりの季節を迎える。
揺れる狼少女の心と、父としてグルゥが下した決断は――
NEXT → 第4部 勇者戦争編 ―開幕―
and more...




