93.愛娘とおっさん―9
「キットッ!!」
落下してくるキットを見て、グルゥは慌てて駆け出していた。
ユズとの距離が出来たせいか、体を戒める鎖に先程までの強度は無く、グルゥの力によってあっさりと引き千切れる。
着地地点へと先回りしたグルゥは、キットの小さな体を、両腕で確かに受け止めた。
「なんて無茶をしてるんだっ!!」
「へ、へへっ。だってこのまま指を咥えて見てるなんて、そんなのカッコ悪いじゃん」
鼻の下をこすりながら、キットは照れたように笑った。
だが、その老人のように皺が刻まれた指先を見て、グルゥの顔が蒼白になる。
「お前、この手――」
「だ、大丈夫だってこのくらいっ。お返しに、向こうにもダメージを与えてやったんだぜ? こんなの、ほっときゃすぐ治るっての」
そう言って、キットはグルゥの腕の中から飛び出して、トコトコと明後日の方向に歩いていく。
自分と距離を取るような行動を見て、あまりキットらしくないとグルゥは不思議に思ったが、とりあえずダメージは少なそうだと安心した。
だが――
「うっ、げほッ」
束の間の安堵は一転する。
背中を見せたまま、膝をついて何度も咳き込むキット。
後ろからしか見えないが、確かにキットは血を吐いているようだ。
「おい、大丈夫かっ!?」
グルゥは慌てて駆け寄るが、キットはまるで逃げるように、その場から這って動こうとした。




