93.愛娘とおっさん―8
「“絶対拒絶”――」
「遅いッつってんだろッ!!」
とっさにチートスペルを発動させたユズだが、それを言い切るよりも早く、キットの手刀が首筋を狙っていた。
「おっ、と」
が、とっさにシノカミの右手がキットの手を捕らえていた。
手刀の切っ先は僅かにそれ、ユズの頬に一文字の赤い筋がつく。
「ちッ」
舌打ちをしたキットに対して、シノカミの右目が赤く光った。
「終わりだ、命を刈り取る右手』」
黒い靄がシノカミの右手を包み、キットから生命力を奪っていく。
瑞々しい肌が瞬く間に枯れていき、そのまま朽ちていくように見えたが、
「接触が必要なのは、お互い同条件ってワケか」
キットの目は全く死んでいなかった。
むしろ、これを待っていたと言わんばかりに、鋭い目でシノカミを睨みつける。
「喰らえよッ、オレの雷ッ!!」
キットの全身から放たれる電撃。
シノカミはハッとして手を離したが、その時には既に右手が黒く炭化していた。
「“衝撃波”」
キットとシノカミが離れたところで、ユズは衝撃波をキットの上からぶち当てる。
キットはその勢いで地上へ吹き飛ばされ、両者の間に追いつけないほどの距離が空いた。
「犬めが……大事な体に、傷を付けやがって」
小さくなっていくキットを睨みながら、ユズは恨みがましく怨嗟の言葉を吐くのだった。




