93.愛娘とおっさん―7
「“絶対拒絶”、“衝撃波”、“戒めの枷”」
黒い半透明の壁が生まれたかと思うと、熱射線は弾き返される。
反対にユズが放った衝撃波を受け、グルゥは吹き飛ばされそうになったが何とか踏みとどまった。
が、その硬直の隙を狙われ、地面から生まれた鎖がグルゥの四肢に絡みつく。
「ぐッ……!! 貴様ぁ……ッ!!」
「これで分かっただろ? “魔神の心臓”を手に入れ、チートスペルも使いこなせるボクに君が勝てるわけがないんだ。分かったら、大人しく地べたに這い蹲ってろよ」
頑強な鎖はグルゥの力を持ってしても引き千切ることは出来ず、逆に暴れれば暴れるほど、深く絡みついて体力を奪っていく。
「ノニムを……ッ! 私の娘を、返せッ……!!」
「そうカッカしないでよ。これは、全ての生命を次のステージへ向かわせるために必要な生贄なんだ。ボクが“頂きの座”に到達すれば分かる。君の娘の犠牲は、無駄ではなかったとね」
理解出来ない、いや理解すらしたくないと、グルゥは『憤怒』の涙を流しながらユズを睨む。
床に零れた一滴の涙は、ぶくぶくと泡を立てて蒸発し、小さな炎をなって燃え尽きた。
その光景を見下ろしながら、ユズは仰々しく片手を上げる。
すると、黄昏の空にぽっかりと黒い穴が空いて、三人はその中へ向かおうとする。
その時だった――まるで一筋の雷のように、地上から一匹の狼が駆けていったのは。
「遅い」
銀色の毛並みに青白い雷を纏ったキットが、一瞬で空中のユズに追いついていた。




