93.愛娘とおっさん―5
黄昏時、オレンジに染まった世界で、両者は無言のまま睨み合った。
二人の視線が交錯する度に、お互いの“魔神の心臓”がチカチカと光を放つ。
それはまるで、“殺し合う”という行為に対しての、意思疎通をしているようだ。
「愛娘の体ごと、ボクを殺すのか?」
「このまま貴様にノニムの体を悪用されるくらいなら、その方がマシだ。だが、何としてもノニムは取り返してみせる」
「無駄だよ。そんな方法、この世界には存在しない。世界の真理を知っているボクが言ってるんだ。間違いない」
「存在しないのなら、作り出してみせるさ。そのためにも、お前はこの場で倒し、拘束させてもらう」
「あはッ、それは面白そうな研究のテーマだね。協力してあげたいところだけど、あいにくボクの目的は君を助けることでも、嫌がらせをすることでもないし、この体を使ってやるべきことがあるんだ」
そう言うと、ユズは焼け野原のようなジルヴァニア城を歩いた。
歩を止めたのは、黒く焼け焦げた人間の前だ。
「チートスペル“完全回復”」
ユズのチートスペルにより、姿形や年齢すら分からなくなっていた人間の姿が復元される。
それは、先程まで玉座の間に倒れていた、マリモだった。
「あーあ、こんな酷いことをしてさ。結局のところ、君は自分さえ良ければ他人を傷つける……そういうヤツなんだろ?」
同じ手順で、ユズはカエデも回復させる。
その二人の姿を見て、グルゥは少なからず動揺をしていた。
(確かに、ユズの言う通りだ。『憤怒』に任せて、私はまた他人を巻き込んでしまった)
「今回は特別だ。ゲームマスターが彼らを殺すわけにはいかないからね」
もしもユズが、二人を復活させることなく戦いに興じていたら――そのことを考えると、グルゥは膝が震えるほどの恐怖を感じた。




