93.愛娘とおっさん―4
「あれあれ? もうおしまい? 私の知ってるお父さんはもっと強かったけどなァ?」
「やめ…………ぅ、ぁぁ…………」
ノニムは小さな手でグルゥの頭を鷲掴みにすると、めきめきと指をめり込ませていった。
「ま……当然、想定内だったけどね。愛する娘の体に、お前が手を出せるはずがないってことは」
「ユズ、きさ、ま…………ッ!!」
「何凄んでんのさ。こんなチビッコにボコボコにされて。もういいや、飽きちゃったし……お前、つまんないからこのまま脳漿ぶちまけて死ねよ」
このまま脳味噌を握り潰すつもりなのだろう。
ユズの指にグッと力が込められる。
激痛にグルゥは発狂しそうになるが、このままでは、ノニムの体は乗っ取られたまま、世界の敵になるのだと考えると、
「貴様……ッ! 許さん、絶ッ対に、許さんぞッ…………!!」
グルゥの“魔神の心臓”も眩い光を放ち始めた。
それを見てユズは、おおっと嬉しそうな悲鳴をあげる。
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
魔獣化も果たさぬまま、グルゥは口から熱射線を放った。
だがユズは、それを炎を纏った拳で弾き返そうとする。
「そうだ……もっとだ、もっとあんたの『憤怒』を見せてくれよッ!!」
目玉をひん剥き、血走った眼で愉悦の叫びをあげる姿は、もはやグルゥの知っているノニムではない――完全に、“ユグドラシズ”そのものである。
爆発が起きた。
玉座の間――いや、フロア一帯を全て弾き飛ばすような、激しい爆発だ。
黒煙が立ち込める中、それでも無傷で立ち尽くしていたのは、ノニムの姿をしたユズとグルゥである。




