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93.愛娘とおっさん―2

「やめろ……ノニムに手を出すなァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」


「だから、手を出そうとなんてしてないってば……。だってこのコは、もうボクのものなんだから」


 クスリ、とユズがあどけない笑みを浮かべる。


 完璧すぎる、純粋無垢な少女の笑み。

 だがそれは、完璧すぎるが故に他者に恐怖を与えるような、歪んだものだった。


「チートスペル“魂転移(トランスレーション)”」


 瞬間、眩い光がユズの指先から放たれる。

 危険を感じたグルゥは、そのまま容赦なく、ユズの腹部に拳を叩き込んだ。


 ボゴゥ、と肉の砕け散る音がする。

 風穴の空いた腹部。


 グルゥは、貫通した己の拳を見ながら、愕然としていた。


「これ……は…………ッ!?」


 力無くうなだれるユズ。

 まるで糸の切れた人形のようだが――実際、それは“人形”であった。


 以前に戦った、ユグドラシズのフリをしていたホムンクルスと同じである。

 少女の姿をしたユズも、ユグドラシズが作り上げた、肉塊を集めたホムンクルスでしかなかったのだ。


「あーあ、こんな小さな子供にまで手をあげちゃって……お父さん、本当は酷い人だったんだね」


 ゾッと背筋に悪寒がはしる。


 それまで自我をもたなかったノニムが――まるでこの世の悪意を全て集めたかのような表情で――自分を睨んでいた――明らかな敵意を持って。

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