93.愛娘とおっさん―1
白いワンピースを着せられたノニムは、まるで人形のように無表情に佇んでいる。
かつてのミノンのように、何かしら精神に影響をもたらす薬を投与されているのだろう。
そう思うと、煮えたぎるような『憤怒』がグルゥを包んだ。
「おっと、勝手な真似はしないでくれよ? ボクの手が滑って、この子を傷つけてしまうかもしれない」
「人質にして……それで優位に立ったつもりか? もし、その子に指一本でも触れてみろ。お前なぞ、この場で消し炭にしてくれる」
グルゥの言葉にハッタリは一切に無い。
今、自分が持ち合わせている『憤怒』を解放すれば、ユズはおろか、ジルヴァニア城全てを一瞬で破壊できると――そんな確信が、胸の内にあった。
だが、
「触れる気なんてさらさら無いよ。だけど……そうだねぇ、お父さんには、まずこれから見てもらおうかな」
ユズの手が、ノニムのワンピースの襟にかかった。
そして、力任せに胸元まで破り捨てられる。
「…………ッああああああああああああああああ!?」
それを目の当たりにした時、グルゥは思わず絶叫をしていた。
露わになったノニムの白い肌。
まだ膨らんでもいないその胸の中央にあったのは――自身も手に入れたばかりの“熱球”だったのだ。
「何故だ……ッ!? どうして、ノニムにそれが――」
「“魔神の心臓”。ボクの研究の集大成の一つだよ」
ドクン、ドクンと脈打つように鼓動しているノニムの熱球に、ユズはそっと手をかざす。
まずい、とユズが何かを仕掛けようとしていることを察知し、グルゥは大きく一歩を踏み出した。




