92.追憶とおっさん―8
「……ふざけるな。二人は傷つけない、そして、お前はこの場で倒す」
「ふーん、つまんない考え方。本気を出してボクを含め皆殺しにした方が、よっぽど世界のためになると思うよ?」
ユグドラシズの言葉は、確かに正論のように聞こえるが、その裏に何かの目論見があることは明らかだ。
「何が目的だ。わざわざ、私をここまで誘い込んだんだ。この心臓を奪うつもりか?」
「まさか。今さらそんなもの、欲しいとも思わないよ。ボクはただ、ご挨拶をしたかっただけさ……これからの“聖戦”に向けて、お父様にね」
ユグドラシズの言葉を聞いて、グルゥは何か、猛烈に嫌な予感がした。
それは、これまでの苦難など比較にならないような、絶対的な何か、だ。
「何を言っているのだ……貴様は……ッ!!」
「と、その前にまずは、ネタバラシをしておこうか。ビックリさせられるのは今だけだからね」
そう言うとユグドラシズは、いともあっさりとフードを外した。
その下から現れた者の姿を見て、グルゥは驚愕する。
「お前は、確か……っ!?」
「久しぶり。って言っても、こうして正面から向き合うのは、二度目かな」
その子供は――かつて一度、合間見えたことがあった、異世界勇者だった。
「ユズ……ッ!?」
「その名前で呼んでもらえると、嬉しいね。大賢者ユグドラシズなんて仰々しい名前、可愛い女の子には不釣合いだからさ」
無口で、常にゲームに向き合っていたような大人しい少女が、世界を揺るがすような力を持った大賢者だった――その事実を、グルゥはすぐには飲み込めそうになかった。




